原題: Madame Sousatzka (マダム・スザーツカ 1988年)
原作: Bernice Rubens, Madame Sousatzka, 1962 (バーニス・ルーベンス著『マダム・スザーツカ』、1962年刊)
見どころ:
クラシック音楽(ピアノ)が好きな人にはたまらない作品。静かに感動を呼び起こす佳作。
毅然と生きる老婦人を演じさせたらやはり、シャーリー・マクレイン
Viewpoint-@ ロンドンのダウンタウンでピアノ教師をしているマダム・スザーツカは、自らみ込んだ才能豊かな少年少女だけに限定して、ピアノの基礎を厳しく指導しています。
高い理想を抱く彼女は、彼らの生活全体について、一流のピアニストとしての理想像に適合するようにいちいち口煩く指図するのです。
ところが、才能と資質に富む教え子たちは、やがて自分自身の進むべき道に向かって歩み出そうとします。「母親から自立するための反抗期」のように。
気まずい別れをしたのち、スザーツカに基本をみっちり仕込まれた彼らは、プロとしての栄達の道を登り詰めていきます。
そこで、なつかしく思い出すのは、あのスザーツカ女史の厳しい指導。彼らは、深い感謝の念を込めて、スザーツカを思い出すのです。まるで自分の母親のように。
才能豊かな音楽家たちの生き方や悩み、そして師弟関係などを丁寧に描いた作品です。
とりわけ指導する側の考え方と心情、それに対する弟子の少年の人生の選択をめぐる葛藤や試行錯誤に温かい目を向けています。
Viewpoint-A ところで、主人公、マダム・スザーツカとマネクをめぐる人びとの生活は、ロンドンのダウンタウン(旧中心街)で営まれています。が、サッチャリズムの強硬な政策によってダウンタウンは急速に変貌していきます。
年老いた人びとは、政府や自治体によって、住み慣れたダウンタウンから追い立てをくらっています。ダウンタウンはもはや一般民衆の生活の場ではなくなってきているのです。
スザーツカやマネク、そして彼らの周囲の人びとの生活の変化が、その背景となっているロンドンという都市構造の変貌と重ね合わされて描かれています。
こうして、この映画は、1980年代後半のロンドンの都市環境の変化という歴史過程をすばらしく巧みな映像物語として切り取り、描写し切っています。ブリトン(英国人)の歴史の記録と検証に対する情熱と手腕に脱帽!
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