『ミュージック・オブ・ザ・ハート』(1999年作品)はニュウヨーク市ハーレム地区で子どもたちにヴァイオリンの教育をおこなったロベルタ・ガスパーリの活躍と子どもたちの努力を描いた物語だ。実話にもとづいて脚本がつくられた。
このダウンタウンのヴァイオリン教室の物語は、女性の自立の物語であり、ハーレム地区の子どもたちの物語であり、そして音楽芸術・教育のすばらしさを描いた物語だ。
何よりも、メリル・ストリープの圧倒的な存在感と演技力が印象的な作品だ。
原題は Music of the Heart で、訳すと「心のよりどころとしての音楽」ということになるだろう。
物語のヒロイン、ロベルタ・ガスパーリは、実際に1980〜1990年代にニュウヨークのダウンタウン、ハーレムで小学校の課外活動としてのヴァイオリン教室を指導し続けた。
彼女の奮闘と子どもたちの努力、成果は1995年、アラン・ミラー監督のドキュメンタリー映画 Small Wonders (ささやかな奇蹟)に描かれ公開され、アカデミー賞(ドキュメンタリー映像部門)を受賞した。
映画《ミュージック・オブ・ザ・ハート》の物語と脚本は、このドキュメンタリー・フィルムが下敷きになっていると思われる。
見どころ:
1970年代末からニューヨーク市イーストハーレムの基礎学校(小学校)で子どもたちのためにヴァイオリン教室を指導したヴァイオリニスト、ロベルタ・ガスパーリ・ツァラヴァス。彼女と教え子たちの努力の実話にもとづく物語の映像作品。貧困や家庭問題、偏見や公教育・教育行政の貧困などの困難を乗り越えて、ヴァイオリン教室を運営した人びとの努力と心意気を描く傑作。
ロベルタがヴァイオリン教室を始めた頃には、ハーレム地区は、有色人種の人口比率が高い、荒廃した貧困地区として都心部に取り残され、犯罪や暴力が多発していた。
多くの子どもたちが、そういう生活環境のなかで教育や健全な成長の機会を奪われ、犯罪の道にはまり込んだり、暴力の犠牲者となっていた。
ロベルタとその協力者たちは、子どもたちに芸術文化への接近の機会を提供し、より健全な生活・教育・文化環境を創り出そうとする最も重要な動きのひとつだった。
1990年代半ば頃からは、ニュウヨークのダウンタウンの都市生活環境と治安状態はかなり改善されていくことになったという。
ロベルタ・ガスパーリは保守的なイタリア系社会で育ったせいか、結婚後は、家事と子育てに明け暮れる主婦として、夫に頼り切った生活をしていた。ところが、浮気っぽい海軍士官の夫と離婚することになった。夫と別れたロベルタは、2人の男の子を抱えて、故郷の母親の家に転がり込んだ。
子供を養うためにと、ニューヨーク市イーストハーレムの小学校の臨時教員となって、課外コースのヴァイオリン教室の指導を始めた。この地区は低所得のアフリカ系、ヒスパニック系住民が多いところ。音楽芸術や子どもの情操教育までは、保護者たちの関心が向かない地区だ。ロベルタの行く手には幾多の困難が待ち構えていた。
音楽の演奏技術の習熟のためには、厳しい訓練と自己抑制、自己規律が求められる。貧困家庭で、いわば「しつけ」に手が回らない家庭で育った子どもたちに規律や集中力を身につけさせるために、ロベルタは苦労する。だが、子どもたちに何とか教養や情操教育の機会を与えたいと心から願う親たちも多く、何とかコンサート(発表会)に開催にこぎつけた。
最初のコンサートの成功から10年後、ロベルタのヴァイオリン教室は近隣の3つの小学校にまで広がった。各年度の教室の受講者は150人にもなった。教えた子どもたちは、1,400人を超えた。
ところが、市の教育予算の削減で、次年度にはヴァイオリン教室は閉鎖されることになった。そのときから、ロベルタの本当の闘いが始まった。ロベルタの闘いは、コミュニティの社会的運動となってマスメディアにも取り上げられ、有名音楽家たちの支援を受けて、カーネギーホールでのコンサート企画にまで発展していった。
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