さて、フォイルが警察署に着くや、ミルナーがサマンサの下宿先が爆撃されて破壊されてしまったことを急報してきた。2人はサマンサの住居に駆け付けた。
ハリスン夫人宅脇の空き地で、運び出された荷物の上に腰かけていたサマンサは茫然自失のありさまだった。それでも、フォイルたちはサマンサの無事を喜んだ。
サマンサは被災した現場で犯罪があったことをフォイルたちに告げ、老婦人を引き合わせた。
フォイルはハリスン老夫人から事情を聴取し、被害を聞き出した。
「消火作業が終わって、家に入ってみると、この箱に入れておいた硬貨と宝石類が盗まれていたんです。
どれほどの金額になるのかはわかりません。でも、亡くなった夫が老後の備えとして蓄えておいたものなんです。
戦争だから、爆撃で家を失ったことは仕方がありません。でも、こんな戦災の現場で人の財産を奪っていく人がいるなんて。許せません」
ハリスン夫人は涙混じりに訴えた。
ドイツ空軍の英国内諸都市への空爆が頻発するようになると、ブリテン政府と議会は戦時立法として「戦災掠奪禁止法」を制定した。といのも、戦災に紛れて爆撃の被災家屋などから金銭や貴金属、美術品などを掠奪する輩が横行し始めたからだ。
こういう事件が目立たなければ、このような法制度はつくられなかったはずだ。 戦時体制下の窮乏化のもとで、一部の人びとの乱暴ですさんだ行為が昂じていったのだ。
その傾向は、市民の社会秩序や政権への信頼感を掘り崩し、市民の間に不信感や亀裂をもたらし、戦時の国民的統合を弱体化させる危険をもたらす。
つまり戦時国家体制の危機を呼び起こしかねない事態だ。
政府は悪質な戦災掠奪犯罪に対しては絞首刑を含む厳罰で臨んだ。それくらいの威圧をもって禁圧しないと、掠奪の横行を止められなかったということだ。
さて、ハリスン夫人からの被害通報(被害者の告訴)を受けてフォイルたちは掠奪事件の捜査を始めた。ヘイスティングズ一帯では、このところ戦争被災地での窃盗や略奪が続いていた。
現場周辺にいた人びとからの事情聴取を終えたミルナーは報告した。
「爆撃直後に駆け付けた防災監視員は現場を直ちに封鎖し立入禁止措置を講じたそうです。だから、現場に立ち入ることができたのは、義勇消防団41E分隊と写真撮影をしたクロニクル紙の記者だけです」
フォイルたちは引き続いて現場近隣での聞き込みをおこなった。
最近続いている戦災地略奪をめぐる情報を集約してみると、そのいずれにも義勇消防団41E分隊が出動して消火作業に当たっていた。捜査陣は、分をが第一容疑者と位置づけた。
物語の映像では、41E分隊のジェイミスン隊長が、大破したハリスン夫人宅の残骸のなかから木箱を発見してなかにある金貨を盗み出すシーンを描き出している。掠奪は習慣化しているようだ。しかも、ジェイミスンは誰にも見つからないような隠し場所に盗品を隠しているのだ。