その日の夕方、捜査活動を切り上げたフォイルは、ハワード・ペイジを歓迎するディナーに参加するために、サマンサが運転するクルマでまず自宅まで連れていってもらい、正装に着替えてからアーサー・ルイス邸まで送ってもらった。
ところがルイス邸のすぐ前で、中年の男が慌ただしく邸から出てきてクルマにぶつかりそうになった。サマンサは急停止して、フォイルとともに男の人相風体に見入った。その男は酒に酔っていて、足元がおぼつかないように見えた。
男は近所で雑貨店を営んでいるリチャード・ハンターだった。
フォイルは仕事上の習慣から、今しがたルイス邸の前で見た不審な男のことをアーサーやエリザベスに尋ねた。それで雑貨屋のハンターがペイジに会いに来たことがわかった。
フォイルは次にペイジにハンターという男のことを訪ねた。すると、ペイジはこう答えた。
「金持ちになって有名になると、昔の知り合いやら他人がやたらに会いに来る。
ハンターはまあちょっとした昔に知り合いだよ。
金をせびられたので、追い返したのだよ」と。
ペイジには助手兼ボディガードとして情報局員――首相直属の諜報組織のメンバー――のビショップが同行していて、フォイルに失礼な質問をするなと圧力をかけてきた。彼は、英国内で機嫌を損ねるような事態や危険な人物からペイジを守る防護壁となっているようだ。
そうして、気分良く宿り帰国したペイジが合衆国政府を動かして軍事援助協定をいち早く取り結ぶように運びたいというわけだ。
その夜のディナーにはフォイルのほかに地元の名士として、レドモンド医師夫妻が招待されていた。レドモンド医師はアメリカ嫌いだったので、終始憮然としていた。フォイルは面白みのない会話に如才なく付き合った。
というのも、ハワード・ペイジは経済的成功を鼻にかけた鼻持ちならない富豪で、軍事援助交渉のために絶大な外交権限を与えられているため、さらに傲岸な物言いだったからだ。この数日、英国内ではチヤホヤされ続けてきたこともあるだろう。
会食中、ペイジに反論しようとした夫を宥めて抑えたレドモンド夫人が、面白味の会話に飽き足らしく、「酔い覚ましに化粧室によって外の風を浴びてくる」と言って部屋から出ていった。
それでも、慇懃にもてなされたペイジは「大統領に援助協定に署名するよう強く説得する」と約束したようだ。アーサー・ルイスは