刑事フォイル第5話 目次
第5話 50隻の軍艦
50隻の駆逐艦の供与
英独戦の戦況
サマンサの災難
ハワード・ペイジ
戦災地での窃盗・掠奪
晩 餐 会
その夜の出来事
リチャード・ハンター
新聞記者モートン
盗品の隠し場所
ハンスの証言
フォイルの執念
物語の可憐な花、サマンサ
 
『刑事フォイル』作品索引
おススメのサイト
第2次世界戦争をめぐる作品
史上最大の作戦
空軍大戦略
医療サスペンス
コーマ
評  決
信州散策の旅サイト
下諏訪街あるき
小諸街あるき

第2シリーズ第1作 50隻の軍艦

  記事にタイトルのエピソードの番号は、通算でのものとする。この物語は第2シリーズの第1話だが、通算で「第5話」とする。

■原題 Fifty Ships ■
  物語の時期は1940年9月だ。
  そのときから10月までがドイツ軍のブリテン本土攻撃が最も激しく展開された時期であって、そしてまたこの戦争の大きな転換点だった。つまり、ブリテンは何とか持ちこたえ、態勢を立て直して系統的な反撃を準備し始める時期だったのだ。
  とはいえ、いわば守勢に立っていたブリテンにとっては、戦況がどちらに転ぶかわからない時期だった。
  今回の物語では、ブリテンの市民社会を変動させる2つの構造転換が描かれる。
  1つ目は、アメリカによる軍事的・財政的支援であり、2つ目はドイツ軍の空爆戦災地での掠奪の横行という形での社会の荒廃と疲弊だ。ことに1つ目は、戦争後にも長期におよぶブリテン国家の――世界市場での地位も含めた――存在構造を組み換えていくことになる。

50隻の駆逐艦の供与

  1940年9月2日、アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーヴェベルトはブリテン連合王国に対して50隻の旧型の駆逐艦を譲渡する協定書に署名した。当初はかなり値引きした譲渡代金を受け取る計画だったが、譲渡契約の性格は時間の経過とともに転変して、ブリテン側の深刻な財政危機で代金支払いが不可能と見なされたため、この年から99年間にわたってアメリカ軍がブリテンの大西洋の海軍基地――ニュウファウンドランドとカリブ海――を使用できる権利を与えられることと引き換えに、無償引き渡しとすることにした。
  つまり無償軍事援助という形になった。
  原題の「50隻の艦船 Fifty Ships」とはこの協定の内容を意味するのだろう。

  このときに、世界の海洋におけるブリテンの海洋権力の再優位は完全に失われたことになる。もっとも、すでにブリテン海軍の優越の喪失は、実質的には1922年のワシントン軍縮条約で国際法的に確定されていた。
  ところが、この年の春から秋にかけてはアメリカでは大統領選挙をめぐる政治的駆け引きが展開されていた。ルーズヴェルトは再選のために、大統領選挙が終わる11月まではヨーロッパを主戦場とする第2次世界戦争への本格的な関与を明確に表明できない状態だった。
  ブリテンは、1860年代から製造業開発への投資にはあまり目を向けずに海外植民地収奪と金融資本の蓄積に重点を移していた。そのためブリテン側は、この時点ですでに工業生産力ではドイツにかなり水をあけられていたため、軍艦や戦車などの兵器や軍事物資の供給能力の限界にぶつかっていた。
  だから、アメリカからの軍事物資援助を渇望していた。だが、ルーズヴェルトの煮え切らない態度にヤキモキしていた。

  というしだいで、アメリカの英国への軍事的援助のほとんどは、あまり表に出ない形――水面下――で交渉と協定内容の調整が進められていた。
  しかし、電撃戦でヨーロッパ大陸での圧倒的な軍事的優位を見せつけたドイツに対して、守勢に回ったブリテンはかなり手詰まりで厳しい状況にあった。だから、アメリカからの軍事的援助を――条約の細部の内容に関する詰めを後回しにしても――とにかく一刻も早く獲得したいと願っていた。

  『刑事フォイル』のこの物語では、そういうブリテンの窮地が背景にあって、アメリカ側の協定の交渉担当者としてハワード・ペイジ(架空の人物)が訪英していることになっている。
  このエピソードは、この時代の社会状況を描き出すために、そういう実際の状況を背景にしてフィクションとして編み込んだ物語だ。

第4話へ || 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界