エイミー・オールデンは13歳の少女。
ニュウジーランドで母親と暮らしていた。母親はミュージシャンで、国内はもとより世界中をコンサートで飛び回っている。
ところが、あるひどい雨の夜、母親がハンドル操作を誤って交通事故に遭ってしまった。車は大破、母親は即死状態で、エイミーもひどい打撲傷害を負った。意識不明のまま病院に運ばれて入院治療を受けた。
数週間後、少女が病院で昏睡から覚めると、カナダから父親のトーマスが迎えに来ていた。
父親とは10年ぶりの再会。
父親、トーマスは、カナダのオンタリオの田園地帯で造型芸術活動をおこないながら、仲間たちとナチュラリストとしての冒険を楽しんでいる。彼が造形する作品は、公共施設・空間や博物館を装飾するオブジェで、大きさ数メートルの野生動物とか恐竜、想像上のドラゴン、ときには宇宙線の縮小模型などである。
とにかくトーマスはマイペイスな芸術家なので、2人とも芸術家だということもあって、ミュージシャンの妻とは――愛情が冷めたわけではなかったが――別居していた。妻はトーマスの生活とそりが合わずに、3歳のエイミーを連れてニュウジーランドに移住してしまったのだ。
オンタリオは、名前のとおり五大湖オンタリオ湖のカナダ側(北側)に広がる広大な州で、森林や湿地帯に恵まれている。とはいえ、自然環境に恵まれているがゆえに、都市や農村の集落の近辺では、農地や森が売られて別荘やリゾート施設の開発が進んできている。
トーマスはナチュラリストで、小型軽量飛行機やパラグライダー、パラセイルを楽しんでいる。しかし、芸術活動と空の冒険に忙しくて、家のなかの片づけには時間を回さない。とはいえ、トーマスには同棲している恋人スーザンがいて、家事や掃除などをやってくれる。
というわけで、エイミーの両親はかなり風変りな関係にあった。そして、母を失ったエイミーは10年も会っていない父親のもとで新たな生を始めることになった。母親を失って精神的に鬱屈感を抱く思春期の少女としては、かなり難しい家庭環境・生活環境に適応しなければならなくなった。
芸術活動と冒険では、トーマスは近所の若者や従兄を助手や仲間としている。
ところが、母親を失ったショックもあって、エイミーは、父親のやや「ぶっ飛び気味」の生活スタイルにはなかなか馴染めなかった。
しかもトーマスは、飛行機をはじめとして、ちょっとした奇妙な機会仕掛けを開発するのを趣味としている。家のあちこちの生活用具に――人を驚かすような――「とんでもない仕掛け」を組み込んで喜んでいるのだ。エイミーとしては、うっかりシャウワーも浴びることができない。
とんでもない仕掛けに衝撃を受けて泣き叫ぶエイミー。そんな彼女を宥めて慰めるのは、スーザンの仕事になった。
はじめのうちエイミーは、父親のパートナーとしてスーザンを受け入れることを拒否したてい。しかし、やがて変人芸術家としての父親とのクッションとして、普通人のスーザンを受け入れていくようになった。