翌朝、2機の軽飛行機とカナダガンの群は、基地の総員の敬礼での見送り受けて、南に向けて飛び立った。
その朝から、合衆国全体でカナダガンの渡りを率いる父娘の話題がメディアの間をを飛び交った。とりわけ、13歳の少女がウルトラライトプレインを操縦して、800キロメートルから1000キロメートルにもおよぶ空の旅の大冒険をしているというトピックは、冒険好きのアメリカ人の心を快く刺激した。まして、野鳥保護や環境保護派の関心はいやがうえにも高まった。
空軍基地からヴァージニア州北東部にいたる渡りの経路下にあって、エイミーとガンの群が上空を通過すると思われる地区の住民たちの多くが、テレヴィ中継を見ながら、双眼鏡で空を眺めることになった。
オフィスビルの屋上や公園、街路上で、人びとは空を見上げながら、南南東に向かう少女と鳥の群に声援を送った。
なかには、エイミーたちがコースを大きく外れないように両手を振ってサインを送り、コース取りを教える人びともいた。
■開発推進派の動き■
エイミー父娘とカナダガンの冒険旅行は、連邦規模で環境保護と野鳥の営巣地・越冬地を保護しようという世論を高揚させた。
そんな状況に危機感を抱く輩もいた。なかでも、ヴァージニアのサンクチュアリーとなった地区を開発しようと手ぐすね引いて算盤をはじいていたディヴェロッパーは、巨額の利潤獲得のチャンスを何としても逃したくないと焦っていた。
昨年までの状況だと、この冬も越冬するために飛来する渡り鳥は来そうもないと見られていた。だから、保護期限の切れる数日後に備えて、ブルドーザーなどの建設機械と操縦人員を雇って、一帯の知面の造成を計画していた。
ところが、そこに降って湧いたように、カナダガンの渡りのニュウズが飛び込んできた。
開発業者は、その日のうちに期限が切れるという日の朝から、何台もの大型ブルドーザーを保護地区の入り口に待機させ、いち早く突入させようとしていた。開発推進のデモンストレイションだもいえるだろう。
それに対抗して、エイミーたちの冒険に勇気づけられた環境保護派とナチュラリストたちのグループが結集して、保護地の入り口に立ちはだかり、なかには座り込みで建設機械の侵入を阻止しようととしていた。
そして、この騒ぎを報道しようとするメディアの取材陣もどっと押しかけていた。
■トーマスの墜落■
さて、エイミーとトーマスは、メアリーランド州ボルティモアを越え、デラウェア州を縦断して、ヴァージニア州に入った。そして、越冬地まで残り1時間の距離まで近づいた。
ところが、そこでトーマスのライトプレインのエンジントラブルが起きた。
超軽量飛行機はどんどん高度を下げていき、ついにトウモロコシ畑に墜落気味の不時着をしてしまった。
消えた父の姿を求めて、エイミーと鳥たちも、墜落場所付近の畑に着陸した。泣き顔になりながら、エイミーは必死に父親を捜した。
コーン畑の派が下の向こうから父の声がして、ようやくエイミーはトーマスを見つけることができた。
しかし、トーマスは肩を脱臼しているようだった。軽飛行機も壊れているうえに、父も負傷。挫けそうになったエイミーを父が励ました。
「あと1時間の距離だ。あの越冬地をサンクチュアリーとして守るためには、何としても強の夕暮れまでに到着しなければいけない。
エイミー、だからお前1人でガンを連れていってくれ」
だが、エイミーは怯えていた。
「お父さんもいっしょに乗ってよ。飛び方をインストラクトしてくれないと、私1人では飛べないわ」
「いや、大丈夫だ。お前は優秀なパイロットだ。勇気をもって飛び立つんだ!」