やがて北の地、オンタリオに晩秋がやってきた。
この北の地で繁殖と子育てを終えた渡り鳥たちは、まもなく温暖な越冬地を目ざして長い空の旅に出るはずだ。エイミーの若鳥たちも、渡りの冒険に調整することになっていた。
当初の計画では、はじめての渡りに挑むエイミーと若鳥たちが余裕をもってヴァージニアの越冬地まで旅ができるように、11月1ないし2日までに渡り飛行を開始するはずだった。ところが、訓練が長引いて、予定の日を過ぎてしまった。
とかくするうちに、くだんの捕獲動物管理官が、エイーミーとトーマスたちの留守を狙ってオールデン家の納屋に忍び込んで、カナダガンの若鳥をすべて捕獲して事務所のケイジに閉じ込めてしまった。
そのとき、エイミーとトーマス、仲間たちは、飛行訓練中にエイミーの軽飛行機に接触して森に落下してしまった1頭の若鳥を探し回っていた。森が闇に包まれる直前に、ようやくエイミーが鳥を保護した。
だが、帰宅してみると、ほかの若鳥たちは連れ去られてしまっていた。
とはいえ、鳥たちの行先は明らかだった。
エイミーとトーマス、伯父たち仲間は、若鳥の奪還と渡り飛行への出発を密かに計画した。
その日、エイミーは授業をエスケイプした。そして、トーマスとエイミーは軽飛行機に乗り込んで空に舞い上がった。タイミングを見計らって、伯父たちは管理官事務所に行って職員を外に誘い出しているあいだに、ケイジから鳥たちを脱出させた。
逃げ出した鳥たちは草の上を歩いていたが、近くをエイミーとトーマスの飛行機が飛び過ぎるのを見ると、いっせいに飛び立った。そのまま渡りの編隊飛行に入った。
2機の軽飛行機に誘導されたカナダガン14頭の編隊は、棲家の上空を2、3回旋回すると、オンタリオ湖に向けて飛び立った。落下して風切羽を傷めた鳥は、エイミーの軽飛行機に積まれていた。
飛行編隊がハイスクールの上空を飛び過ぎるとき、エイミーの同級生たちが気づいて見送った。
■越冬地を守れ!■
エイミーとトーマスが目標地点に選んだ場所は、ヴァージニア州リッチモンド市の東方にある海辺近くの湿原地帯の樹林と草原。
そこは、すでに10年前から野鳥保護地区として開発業者の手から保護されてきた。ところが、都市化が近隣まで迫ったせいか、その地を越冬地とする渡り鳥はこの数年ゼロだった。そして、もしこの冬に1頭も渡り鳥の飛来がなければ、保護地区の指定から外され、開発業者の手に引き渡されることになっていた。
結局のところ、越冬地だけ保護しても、飛翔能力を持つがゆえに行動半径の広い渡り鳥たちが生活しやすい環境を広域的に保護できなければ、生態系の維持はできないということなのだ。
そこで、トーマスの兄は、そのバードサンクチュアリ―を守るために、カナダガンの目的地をそこに選んだのだった。
つまりは、エイミーとカナダガンの冒険の背後には、環境保護とか自然保護という政治的・社会的イッシュウが横たわっているのだ。