エリン・ブロコヴィッチ 目次
人は見かけによらないもの
見どころ
あらすじ
ないないづくしのシングルマザー
押しかけ事務員
環境汚染と健康被害
隣のジョージ
失業そして職場復帰
大企業の欺瞞
失業そして職場復帰
健康被害の深刻さ
動き回るエリン
そして住民は立ち上がる
ジョージの悩み
子連れの調査員
法廷闘争に向けた作戦
調停裁判の闘い
ジョージの帰還
作品を観終えて
おススメのサイト
異端の挑戦
炎のランナー
法廷サスペンス
訴訟クラスアクション
評  決

動き回るエリン

  ヒンクリーでの土壌や地下水脈の汚染による健康被害を受けていることが判明した住民の数は、どんどん増加していった。エドワードの訴訟戦略によって、被害者たちは、とりあえず過去および将来の医療費を上乗せした住宅売却価格でPG&Eに買い取らせることにしていた。
  ところで、エリンは法律や訴訟に関してはまったくの素人。だから、法廷闘争や交渉で勝つために、法律知識を駆使して重箱の隅をつつき回すようなことはできないし、しようとも思わない。
  その彼女を突き動かすドライヴは、社会問題・環境問題それ自体への洞察力・批判精神、そして被害を受けた人びとへの共感なのだ。つまりは「法律や訴訟」をめぐる「理屈のフィルター」を通る前の、問題そのもの、事件そのものの本体が見えるのだ。
  分厚い法制度のフィルターを通過すると、人びとの苦しみや問題の本質が見えなくなってしまうこともあるから、生の現実を見据えて被害や損害の実態を明らかにし、その不当性を訴えることは大切だ。

  だが他方で、大きな権力と闘って人びとの尊厳や権利を擁護するためには、法律知識や訴訟技術や駆け引きのテクニックがどうしても必要だ。交渉や訴訟で勝たなければ被害者は救済されないからだ。闘うためには武器や防具が必要なのだ。勝てば訴訟相手の違法行為を差し止めたり、被害・損害を補償するあめの法制度や規範が形成されるのだ。

  そんなことを知ってか知らずか、エドワードエリンは互いに言い分をぶつけ合いながら、戦線の受け持ち範囲の分担をすることになった。それぞれの得意分野で闘うことにした。エリンは、汚染と健康被害の問題そのものの解明と被害住民を結集するためのコミュニケイションに突き進むことになった。
  エリンは、被害住民を訪ねながら、環境汚染と健康被害の実態を解明しようとした。エリンの調査や住民どうしの話し合いで、被害者=交渉団のメンバーは11人になった。ところが、その後もどんどん被害者の数は桁違いに拡大した。


  こうして事件は、住宅取引の交渉から環境破壊と健康被害をめぐるクラスアクション――多数の住民集団の法廷闘争――に転換し始めた。
  この出来事に、エドワードはちょっぴり及び腰になった。
  というのも、彼は近々、弁護士活動の現役を退いて、悠々自適の老後生活に入ろうかと考えていたからだ。人権派弁護士として立場の弱い市民のために倍賞金や慰謝料、医療費など何千万ドルも獲得してきた。その1割くらいがエドワードの報酬で、この金で住宅を買い、老後のための貯えも得た。
  ところが、今回の訴訟のコストとリスクは、その蓄えを食いつぶしそうな雲行きになった。
  なにしろ原告団が10人を超える集団的住民訴訟となると、調査や鑑定、訴訟費用などだけで数百万ドルの見積りとなる。そして毎月10万ドルを超える経費が発生する。
  しかも、大企業は一流の法律事務所を雇ってあの手この手で訴訟を面倒にして法廷闘争を長引かせようとする。上級審から最高裁まで10年以上の法廷闘争の期間が続くことがほとんどだ。

  そんな負担には、地方都市の小さな法律事務所では耐えられない。
  エドワードは、エリンに弱音を吐いた。環境汚染・健康被害訴訟に持ちこむことはできない、と。
  エリンは、法廷闘争の難しさをしらないから、すごい剣幕でエドワードを責め立てた。
  「ヒンクリーの住民の多くは、地下水汚染が原因で深刻な疾病に苦悩している。肝臓癌、膵臓がん、結腸癌、大腸癌…で、今まさに彼らは苦しんでいるうえに、仕事もままならない苦境のなかで、医療費だけがかさんでいるのよ。まだ10歳のアナベルは脳腫瘍で苦しみ、起きることもできない。
  彼らは、毎日、私に連絡をくれるわ。ほかにも、こういう健康被害を受けた人びとがいると。このまま、住宅取引交渉で終わってしまうんじゃ、あの人たちの信頼にこたえられないし、責任を果たせない」と。

  結局、腹をくくったエドワードは自宅を抵当に入れて、法廷闘争に臨む決意をした。
  エリンは「言いすぎた。あなたはよくやっているわ」と謝ったが、エドワードはため息交じりに言った。
  「慰めの言葉とほめ言葉は、私が破産したときのために、取っておいてくれ」
  エドワードは、エリンにさらなる証拠集めと被害の実態調査を命じた。エリンはヒンクリーのあちこち(とりわけPG&E工場の周辺)の沼沢や井戸、地下水などのサンプルを自分で集めて回った。

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