「人は見かけによらないもの」という格言を地で行く物語が、映画作品『エリン・ブロコヴィッチ』――原題は Erin Brokovich 、2000年公開――で描き出される。
正規の法律・法学教育を受けたこともないシングルマザーが、ごく庶民的な生活感覚で深刻な環境汚染・健康被害問題を探り当てる。そして、環境汚染を引き起こしながら汚染地帯の住民の要求を封じ込めようとする巨大企業を相手にした集団訴訟を組織化し、牽引する役割を担って活躍する。
ファンタジーのようなサクセス・ストーリーだが、カリフォーニア州で実際にあったできごとで、エリン・ブロコヴィッチは実在の女性だ。実話をもとにしてつくられらた映像物語なのだ。
1960年6月生まれのエリンは、映画で描かれたように、巨大ガス・電力会社が引き起こした環境汚染・健康被害問題を法廷の場に持ち込み、多数の住民の健康と権利を擁護する運動をリードした。その後、環境問題をめぐる活動家となった。
彼女は現在、環境・人権問題に関する訴訟にさいして調査とコンサルティングをおこなう団体「ブロコヴィッチ・リサーチ&コンサルティング」を主宰し、世界各地で数多くの公害・健康被害訴訟で原告・被害者側の弁護団と協力して活動している。
見どころ
実在の人物と事件をもとにした映画作品。
スレンダーで手足が長いジュリア・ロバーツ主演。彼女が扮するのは、3人の子どもの若いシングルマザー、エリン・ブロコヴィッチ。外観は、露出度抜群の服装で軽薄な女性を絵にかいたような主人公。
だが、人生と仕事にはきわめて真剣に取り組む、超まじめ人間。
エリンは生活費を稼ぐため無理やり割り込んで事務職に居座った法律事務所で、ひょんなことから大企業が引き起こした環境汚染・健康障害の大事件に出くわし、住民の権利と企業の責任追及に挑み続ける。
彼女との恋に落ちて同棲するようになるジョージ。彼もまた見かけとは大違いのナイスガイだ。長髪のポニーテイル、髭面の大男で、超高級大型バイク、ハーリー・ダヴィッドスンに乗っている。肩には刺青。一見、こわもてのお兄さん。
普段は仕事をせずに自宅でバイクを磨いている。だが、子ども好きで家事が大好きで、女性にはきわめてやさしいシンプル・ライファー。
ジョージは、仕事にのめり込むエリンを縁の下で支え、子どもたちの面倒を見る。
そして、3人目が弁護士、エドワード・マスリー。中年ぶとりのさえないオヤジで、人権よりも楽な金儲けを狙う法律家に見えるが、実は人情に厚く、情熱をうちにに秘めた老練な弁護士だ。エリンの熱意にほだされて、面倒な公害事件を戦い抜く。
深刻な公害訴訟をめぐる法廷ものだが、この絶妙な人物取り合わせが見事で、観客の耳目を引きつけて逃さない傑作だ。
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