エリン・ブロコヴィッチ 目次
人は見かけによらないもの
見どころ
あらすじ
ないないづくしのシングルマザー
押しかけ事務員
環境汚染と健康被害
隣のジョージ
失業そして職場復帰
大企業の欺瞞
失業そして職場復帰
健康被害の深刻さ
動き回るエリン
そして住民は立ち上がる
ジョージの悩み
子連れの調査員
法廷闘争に向けた作戦
調停裁判の闘い
ジョージの帰還
作品を観終えて
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異端の挑戦
炎のランナー
法廷サスペンス
訴訟クラスアクション
評  決

法廷闘争に向けた作戦

  ますます被害者支援と住民運動の組織化にのめり込んでいくエリンとは対照的に、エドワードは法廷闘争の進め方に頭を悩ませた。おそらく超一流の法律事務所(顧問弁護士集団)を雇ってしたたかな反撃を準備するであろうPG&Eとの、熾烈な訴訟=法廷闘争により確実に勝ち抜くための作戦を考え始めた。
  何より深刻なのは、この訴訟準備に必要な費用=財政をどうやって調達するかという問題だった。
  彼が選択した作戦は、環境問題を得意とする大手法律事務所との提携だった。
  その相手が、カート・ポッター弁護士の法律事務所だった。カートは、環境汚染・住民訴訟をめぐる裁判ではカリフォーニア州随一の腕利き弁護士で、エドワードの最強のライヴァルで、しかも大きな法律事務所を経営していた。

  この方針決定に対して、エリンは反発した。
  自分たちが地道に下調べをし、住民との信頼関係を築いて、ここまできた訴訟に大手法律事務所を介在させると、主導権を奪われ、事件を持っていかれてしまうような気がしたのだ。エドワードは、長期にわたるであろう法廷闘争の財政資金をまかなうためには、余儀ない選択だと説明した。
  その法律事務所の担当弁護士たちとの初顔合わせがおこなわれた。
  ポッターの事務所からは、カートのほかに、隙のない女性用ビズネススーツを着た手堅いイメイジの女性弁護士、テレサ・ダラヴェイルが参加した。露出度の大きいいエリンの服装とは大違い。エリンは、そのスマートな雰囲気に反発した。
  クールにビズネスライクに仕事を進めることに偏重して、住民の健康被害に共感する情操に欠けると感じたのだ。


  打ち合わせが始まると、テレサは、調査資料の不備を補完するための追加調査の必要を指摘した。調査資料を1人で準備してきたエリンは、カチンときた。「どこが不十分なの?」と質問した。
  じつは、有能なテレサは、準備資料を十分読みこなしてこなかった。だから、今回は「とりあえずの時間稼ぎ」の提案をしたのだ。で、原告の電話番号とか家族構成とか、適当に言いつくろってみた。
  ところが、学歴はないが記憶力が抜群のエリンは、テレサが例に出した家族の電話番号から家族構成、健康被害の状態について、きわめて詳細に情報を暗唱した。
  この辺は、法曹界という「男社会」で自立した女性としてキャリアを築き上げていかなければならない女性どうしの主導権争い、ライヴァルどうしの「鞘当て」ともいえる。そして、やり手の有能な弁護士はいくつも係争案件をかかえているので、新たな訴訟について十分準備ができない場合もあるという事実を皮肉ったのかも。

  さらに、エリンが頭に来たのは、ポッター事務所の主導で、訴訟の主目的=形式を和解調停による示談、つまり調停裁判( arbitrage )に絞ろうとしたことだった。憤るエリンをエドワードは説得した。
  相手をとことんやっつけるための裁判だと、訴訟期間はとてつもなく長引く――15年以上と見込まれる。
  これまでに十分長く苦しみ、高額の医療費を支払ってきた健康被害を受けた人や高齢者のなかには、そんなに待てない人も多い。今の局面では、少しでも早く解決策を与えて、生活や病気の苦痛を除去してあげるのが、最善の策だ、法律家の責任だ、と。

  ところで、調停裁判は一般市民による陪審がなく、法律の専門家だけによる審理と判断をおこない、しかも控訴や上訴を認めないという制度である。
  高額の医療費に困窮していた住民たちは早期に補償金を受け取れるのはありがたかった。しかし、PG&Eの責任を曖昧にしたまま和解を迫るポッター事務所のやり方には、ヒンクリー住民たちは強い反対を示した。テレサが書類づくりのために住民を個別訪問したが、そのやり方が大きな反感を買ってしまい、ポッター事務所は当初の方針を取り下げた。PG&Eの責任を追及して確定してうえで、調停による倍賞金(和解条件)に応じる方針になった。
  住民たちは、環境汚染と健康被害の実態・深刻さ(それだけのPG&Eの過怠・過失責任の重さ)を法廷で訴える機会を保証してほしいと願っていたのだ。

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