ニュウヨークの大病院の有能な外科医として患者に接してきたマッキー。だが、咽頭癌になり、今度は患者として病院の組織や医師、看護婦たちと接することになった。医療・病院システムのなかで、ひたすら受け身で治療を施される無力な立場に立たされた。
それまで頭では理解しているつもりだった、患者の側の弱い立場、不安、脅え、心細さなどを身にしみて感じることになった。
おりしも彼は末期の脳腫瘍で余命いくばくもない女性患者ジューンの治療をしていた。彼女は貧しかったので、それまで十分かつ適切な治療を受けなかったため、腫瘍が悪化して末期状態に陥ってしまったという。
ジャックはジューンと心の交流を試みながら、彼女の残された生の時間をできるだけ充足したものにしてやろうと努力する。だが、その努力は周囲からはそれほど理解されなかった。それでも彼はジューンへのケアをつうじて医療のあり方を再検討し始めた。
まもなく友人ジューンを失ってしまったが、マッキーは幸運にも自分の手術は成功し、そのうえ声も取り戻すことができた。気分を取り直したマッキーは、必死になって妻との絆を修復しようと努力した。そして、病院の改革のための「小さな一歩」を踏み出し始めた。まずは、自分が所属する外科のスタッフの意識改革だ。
ジャック・マッキーは、ニュウヨークの大病院に勤める外科医。心臓に絡む手術で見事な実績を誇っている。アメリカでも指折りの名医で、毎日、朝から夜まで、数多くの手術をこなしている。
オペに際しては、手術室に軽快なソウルミュージックを流して、自分と仲間の意欲を引き出し、持続させている。だが、患者は麻酔をかけられ、深い眠りのなかにいる。だから、正確で精妙な判断と技術を駆使することが、それによって患者を救うのだから、外科医の使命だと考えている。
ところが、このところ、手術で疲れがたまったあとでは、喉がすごくいがらっぽくなり、咳が続くようになった。彼の妻アンは、そのことをひどく気にしていて、専門医に診てもらうように強く勧めている。
近所の、小さい頃からのかかりつけの「主治医」は、ひととおりの診断のあと、喉が少し荒れているという診断書を書いた。マッキーが妻に見せるために。
ところが、その後も喉の異変が続いた。
ある日、妻とパーティから帰る途中、車のなかでひどく咳き込んで喀血してしまった。そこで、翌日、同じ病院の女性医師レズリー・アボットに頼んで喉の精密検査をしてもらうことにした。CTスキャンとMRI(磁気共鳴装置による診断)をおこなった。
検査の結果、咽喉の声帯に腫瘍ができていることが判明した。ストレスや疲労が蓄積し続けると免疫力が低下するので、優秀で忙しい医師は要注意だ。
レズリーが選択した治療方法は、だが、切除手術ではなく、放射線治療だった。照射治療を1週間続ければ、腫瘍は縮退するだろうという見立てだった。腫瘍はまだ初期症状で、悪性=癌にはなっていないだろうという判断だった。
腫瘍がリンパ系に転移していないかを調べたところ、転移はなかった。発見が早かったのか、とにかく好運だった。