ドクター 目次
医者と患者
原題と原作について
見どころ
あらすじ
優秀な医師
心細い患者として
末期の脳腫瘍患者との出会い
アメリカの医療保険のひどさ
マッキーの病状と治療法
患者でもある医師として
ジューンとマッキー
担当医と治療法の変更
担当医と治療法の変更
ジューンの死
妻との絆の修復
病院改革への「小さな実験」
  「馴れ合い」を断ち切って
  スタッフ訓練の方法
 
オバマの医療保険改革の挫折
  …レイガノミクス
  …医療保険と社会的コスト
  …展望なき時代へ
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コーマ
評  決

担当医と治療法の変更

  マッキーが放射線治療を始めてから1週間経過した。そこで、この治療方法の効果と病状を検査することになった。担当医レズリーは検査結果にもとづいて、今後の治療の進め方を検討(予後評価)することになっていた。
  検査の結果は、放射線治療はまったく効果をもたらしていない、むしろ喉頭の腫瘍は少し拡張しているようだった。当初のレズリーの診断の誤りだった。
  マッキーはレズリーに説明を求めた。だが、彼女は、数日後に腫瘍の切除手術をおこなうという方針を一方的に伝えるだけだった。手術の予定日程は午後の遅い時間だった。しかも、手術の立て込む日の。
  マッキーは、翌日以降の午前中に設定してくれないか。自分が執刀医なら、いくつも手術をこなして疲労がたまっている時間帯に、当初に見立てを誤ったような難しさをともなう手術をやらないが…と頼んだ。が、気分を害してつっけんどんな答えが返ってきただけだった。

  患者に対する誠意や医師としての謙虚さがあまりにも不足している。こう考えたマッキーは、レズリーの上司でもあることから、「だったら私の診断記録(カルテ)を渡してくれ、担当医を代えてもらう」と言い切った。院内でも高い能力と若手医師への指導力に定評のあるマッキーから「落第」の評価を受けてしまったわけだ。
  レズリーは自分の態度のまずさや診断の誤りを認めず、ただひたすらプライドを傷つけられたと憤慨して、マッキーにカルテを投げつけてよこした。

  さて、マッキーは自分の外科病棟に戻りながら、執刀医として誰に頼むかを考えた。答えはすぐに出た。ユダヤ系の紳士で、どんな患者にも懇切丁寧に情報を提供して納得させながら治療や手術をおこなうブルームフィールド医師に頼むことにした。その丁寧さは、それまでマッキーやマレイの「からかい」の対象になっていた。
  だが、マッキーにとっては、ブルームフィールドは辛辣な冗談を飛ばす相手(からかいの対象)だったが、その技術と患者を深く思いやる真摯な姿勢には、じつは深い敬意を抱いていた。真面目すぎるその姿勢をついからかってしまったのだ。
  とはいえ、自分の生命を預けるとすれば、彼以外にはいない。

  というわけで、マッキーはブルームフィールドを呼び止めて自分のカルテを手渡しながら、「私の喉頭癌の切除手術をやってくれないか」と頼み込んだ。
  いつも、マッキーの辛辣な冗談に悩まされていた――真面目だから、軽く受け流すことができない――ブルームフィールドだが、すぐに「OK、やりましょう。朝一番でやりますよ」と返答した。
  「じつは、私はこれまでずっと、あなたの喉を掻っ切ってやりたいと思っていたんです」――これは、「憎たらしいジョークをもう言わせないように黙らせたい( cut one's throat )」という意味と、「咽喉の手術で執刀する」ということを懸けた、センスのいい冗談である――。マッキーは苦笑いした。


  手術の当日、ブルームフィールドは優秀な外科医でもあるマッキーに、まるで一般の患者にでも対するように、丁寧に説明した。それは、十分納得して安心した精神状態で手術台に横たわり、麻酔に入るための準備だった。
  麻酔が始まろうとしたとき、ブルームフィールドはマッキーの注意を促しながら、ソウルミュージックを流し始めた。そして、マッキーの手術にいつも立ち会うナンシー(黒人女性の看護師。有能でマッキーは深く信頼している)が立ち会う旨を告げた。これもまた、患者としてのマッキーの精神状態を快適にしようという配慮だった。マッキーは感激した。その姿勢から医師として学ぶことも多かった。
  ブルームフィールドは、冗談に憎まれ口をたたくマッキーを、医師としては尊敬していたのだ。
  手術は成功した。

  とはいえ、ブルームフィールドはマッキーに正直に伝えた。
「喉頭癌の切除手術そのものは成功しました。すっかり腫瘍を取り除きましたし、周囲の器官への転移、病変はありません。きれいなものです。
  しかし、咽頭の先端をすっかり切り取りましたから、声帯の一部をも切り取ったわけです。したがって、当分声は出せません。そして、傷が癒合してからも、声帯が完全に元通りになるという100%の保証は今はできかねます。場合によっては、声を失うかもしれません。
  あなたが声を取り戻せるかどうかは、まさに運しだいです」と。

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