マッキーは、病院の医師仲間どうしの関係も大胆に見直していった。
患者のためではなく、医師どうしが閉鎖的な利害共同体サークル――「特権者の利益共同体」――をつくり上げて、患者の健康や生命、利益よりも自分たちの立場や利益を優先する姿勢を批判し、「馴れ合い」を断ち切ることにした。
その典型が、手術でティームを組んでいたマレイの医療過誤への態度だった。
マレイは、手術の結果死亡した患者の家族から訴訟を起こされていた。患者の過去の病歴(罹病歴)を正確に調査把握せずに手術に望んだために、患者は手術中に死亡してしまったのだ。
マレイが取った手術方法は、患者のカルテをきちんと読んでいれば避けなければならないものだった。リスク=負荷が大きすぎるからだ。だが、マレイはカルテを十分に精読していなかった。
その手術にはマッキーも補助医師として立ち会った。だが、術前のマレイの説明では、患者の病歴については何の説明もなかった。
たしかに、施術の段取りや手はず、手際には何の誤りもなかった。
ということで、マッキーは、裁判でマッキー(被告)側の証人として証言することになっていた。「手術には瑕疵がなかった」という証言を。
だが、マッキーは死亡した患者のカルテを精査した。すると、心臓手術で医師が当然に手術方法の選択にさいして十分な注意を払うべき罹病歴が見落とされていたことに気づいた。これは、マレイの重大な過失である。
発見した事実を、マッキーはマレイに伝えた。
「私はカルテを読んでみた。これは、ひどい過失だ。君には責任がある。注意義務違反の過失だ。君の要望に沿った証言をするわけにはいかない」と。
すると、マレイは、 「仲間を裏切るのか。手術に立ち会った君にも、責任の一端はあるんだぞ。君にも非難の矢が向けられるぞ、それもいいのか」と詰った。だが、マッキーは怯まなかった。
「仕方がない。カルテの既往症の記録は明白だ。医師の責任は明白だ」
「それなら、もう君とのティームは解消だ。君は僕の敵だ」とマレイ。
それはミスを犯した同僚を責めるというよりも、医師たちが施術をめぐる過誤や見落とし、その原因を冷静に見きわめて、より適切な施療をめざすためのものだ。そして、患者の利益を最優先に。マッキーは、この数週間で経験し学んだことを、自分の生き方のなかにしっかりと取り込んでいた。