国民国家の内部における移民人口の増加は、労働力人口の増加をもたらす一方、国家の社会保障や福祉政策にとって大きな難題を突き付ける。現在のヨーロッパ(EU)は中東地域のレジーム崩壊にともなう難民・移民が押し寄せたため、未曽有の政治的・社会的危機に直面している。
EU諸国は高い所得税率と引き換えに高度な社会保障(医療や年金などの福祉)の制度を確立してきた。ところが、難民・移民人口の増加によって当面、社会福祉向けの財政負担が急増することになり、難民・移民受け入れ政策が動揺している。
しかもそこに、ISやアルカイダなどと関連するテロルが発生し、市民の間に難民・意味抜け入れをめぐる賛否意見の分裂が生じて、排外的ナショナリズムが台頭してきたのだ。社会福祉財源の危機や福祉給付所水準切り下げの危機と絡んで、ヨーロッパ諸国家は難民・移民政策の練り直しを迫られている。
この程度の変動でEUは未曽有の動揺と危機に陥っているのだ。しかし、人口の高齢化と労働力人口の減少を考えると、ヨーロッパ諸国家は今目先の負担に耐えられれば、将来はむしろ担税人口が増加して状況はむしろ好転するのだが・・・。
このような事態は、合衆国のように恒常的に大量の移民を受け入れながら労働力人口の拡大再生産と国民形成をおこなう国家では、社会福祉政策の選択の幅は相当に厳しく狭められる蓋然性が大きいということを意味するのではなかろうか。ここにアメリカ独特の市民の政治的意識状況が加圧される。とりわけ財政問題、税負担への厳しい見方だ。
ドイツやスウェーデンでは、膨大な社会福祉財政のために所得税率は50%を優に超える。そんな状況はアメリカでは受け入れられようもない。しかし、社会福祉の充実には、そのくらいの財政負担が必要なのだ。
日本の社会福祉の低水準を見ると、人口1億を超えると、高福祉高負担の社会政策は不可能になるという経験則が成り立つような気名する。まして人口3億のアメリカでは・・・。
オバマ政権は医療保険改革を主要政策と1つとして掲げたが、共和党などの保守派の頑強な抵抗で改革派挫折しつつある。
アメリカでは、医療保険の欠如によって国内の労働力の担い手の多数が医療サーヴィスの享受から疎外されている問題は、民主党が1980年代後半から、緊急にその対策を打ち出さなければならないものとして位置づけてきた。その頃から、アメリカでは、医療サーヴィスをめぐる深刻な階級格差と階級紛争が目立つようになっていた。
この問題の深刻化を加速したのは、レイガン政権の無責任な保守主義改革の政策だった。社会保障や社会政策をめぐる政策財源を一方的に連邦政府から切り離して、地方政府まかせにしたことだった。連邦は州に、州は市や郡などに権限と財政負担を移転させた。
中央政府の社会福祉関係での財政支出の削減分は、軍産複合体や金融資本の資本蓄積の支援や加速に回した。軍拡路線と金融競争の務際限の自由化へと舵を切ったのだ。