ドクター 目次
医者と患者
原題と原作について
見どころ
あらすじ
優秀な医師
心細い患者として
末期の脳腫瘍患者との出会い
アメリカの医療保険のひどさ
マッキーの病状と治療法
患者でもある医師として
ジューンとマッキー
担当医と治療法の変更
ジューンの死
妻との絆の修復
病院改革への「小さな実験」
  「馴れ合い」を断ち切って
  スタッフ訓練の方法
 
オバマの医療保険改革の挫折
  …レイガノミクス
  …医療保険と社会的コスト
  …展望なき時代へ
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コーマ
評  決

アメリカの医療保険のひどさ

  ほか記事でも書いたが、アメリカの医療保険制度は、ほかの業界よりもさらに利潤追求の姿勢が強い金融業界の一部=保険業界が組織運営している。それは、第一の目標として、人間の健康や生命・安全ではなく、金融業としての収益性の追求を臆面もなく掲げる業界なのだ。
  利潤本位だから金持ち優先で、所得の高くない一般庶民はとことん割りを食う制度になっている。罹病者は、自分の病状に合わせて自分で病院や治療法を選択できない仕組みになっている。結局のところ、掛け金と保険料率に合わせて、保険会社が患者が医療費の上限を決定し、そのことによって受診できる医療機関ないし治療方法を指定することになる。

  保険会社が医療機関に支払う金額を営利基準によって自分で決めているので、もし患者の治療費用でそれを超える額が出た場合、全額患者の負担となる。保険がきかない医療費なので、だいたいとんでもない額になる。そんな金が払えるくらいなら、ずっと格付けの高い補償条件の良い保険に加入しているはずだ。それが高くて払えないから、ほどほどの医療保険に加入するしかないのだ。
  そこで、治療後に大きな借金を負いたくいないので、普通の患者は、治療の申請を病院や医師にではなく、保険会社におこなう。すると、保険会社は十分な利潤が出るように補償の額をとことん抑えにかかる。それで、患者には、より費用の低い(つまりは多くの場合、治療効果の悪い)治療法または医療機関を提示勧告する。
  患者の望みよりもずっと低い格付けの医療機関(医者)による安価な治療の受診を指示するというわけだ。


  こうして、多くの、軽い病気でない場合に、病状の改善が見られず、むしろ病状の進行悪化を許してしまい、手遅れになったり、より大きな医療費の負担があとで必要になったりする。
  ひどい場合には、救急患者がさしあたりの応急手当を受けたのちには、どれほど症状がひどくても、患者が入っている医療保険でカヴァーできる費用の範囲内の医療機関、治療法の選択を強制されることになる。
  医療レヴェルの格付けの高い病院は、保険会社の格付けも高く、それゆえ金持ち以外はまず受診すらできない現状だ。
  ジューンが脳腫瘍の本格的な治療をおこなわず、手遅れになったのも、こういう医療保険制度のせいだった。

  これが、「自由の国」アメリカの医療制度の現状である。医療に関する限り、人びとの人権の保障程度は、中国やインドとどっこいどっこいである。いわば、国内に低開発国・途上国を抱え込んでいるわけだ。それだけ階級格差・闘争がひどくて、むき出しの構造的暴力が吹き荒れている社会でもある。
  それが、世界で最先端の医療サーヴィスと隣り合わせになっている、不思議な国ではある。 オバマはこの格差を小さくすることを大統領府の目標の1つとしたが、民主党はまとまらず議会で劣勢のまま、共和党の強硬な反対で改革に手をつけただけに終わってしまった。
  日本の政権と政権党はTPPの交渉妥結を成果として誇っているが、先端工業資本の世界競争のために弱者や幼弱産業を犠牲にする危険が高い。医療保険や社会保険制度にアメリカ基準の自由競争が持ち込まれることがないように祈るしかない。

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