刑事フォイル第2話 目次
第2話 臆病者
  犯罪捜査のトリオ
  親ナチス団体の暗躍
  深刻な戦況
  新ナチ・反ユダヤ主義
  ミルナーの苦悩
  のどかな田園風景・・・
  フライデイ・クラブ
  アイザック・ウールトン
  「国民祈禱の日」
  殺人事件発生
  デイヴィッドへの容疑
  ウールトンの正体
  ミルナーとスペンサー
  軍情報部の内偵
  イーディスの後悔
  ファシストの手管
  アーサーの自殺未遂
  手紙の隠し場所
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新ナチ・反ユダヤ主義の浸透

  覇権国家すなわち世界貿易と世界秩序の支配的なオルガナイザーとしてのブリテン国家は、自由主義的レジームで外に対して開かれていた。平時には、この開放的な自由主義は、モノ・カネ・ヒト・情報の国際的流動を促進し、ブリテンの再優位と権威を世界各地に伝達し誇示するための仕組みとして機能していた。
  それは、ブリテンの強大な覇権に挑戦するライヴァルがいない世界では、すこぶる好調に機能した。ところが、ヨーロッパ大陸を席巻する敵対勢力が出現すると、それはこの敵に対して隙だらけの「無防備状態」を意味することになった。
  ナチス・ドイツとヒトラーは、その状況をしたたかに利用した。

  ヒトラーは「電撃戦」によって緒戦でヨーロッパ大陸戦線での圧倒的な優位を確保して、チャーチルが率いるブリテン政府と早期に講和締結に持ち込もうとする戦略をもくろんでいた。その意味では、ドイツはブリテンを追い込む一方で宥め懐柔するために、さまざまなチャネルでブリテン政府・議会や軍部に講和を促す情報を送り、ブリテン内部の戦争反対派や新ナチス勢力と連絡を取り、資金や情報を提供したようだ。
  そのための経路としては、戦争に対して表向き中立の立場を取っていたスペインやスイスなどを経由する人脈や送金ルートがあったという。
  第2話では、こうした経路をつうじてブリテン国内で勢力を扶植し影響力をおよぼした親ナチス運動・反ユダヤ主義運動が登場する。

  スペインではフランコが率いるファランヘ党が、ナチス・ドイツの支援――たとえばドイツ空軍はカタルーニャの都市ゲルニカを空爆した――を受けて、左翼勢力との内戦を制して、ファシスト独裁政権を樹立していた。左翼嫌いのチャーチルは、状況を読み誤って、カタルーニャでで蜂起した左派勢力の壊滅を無邪気に喜んでいた。
  1939年にフランコ政権はスペイン全土を掌握した。ブリテンとスペインとはことを構えなかった――地中海の制海権の拠点であるブリテンのジブラルタル海軍基地にはまったく手を出さなかった――が、ドイツはスペインのレジームを利用し、スペイン領土・領海・領空で自由に兵員と物資の輸送して地中海および大西洋方面への軍事工作拠点を確保していた。
  ブリテンの大企業や銀行などは、イベリア半島に巨大な利権・権益を保持していたので、1942年頃までブリテン市民とスペインとの経済取引や連絡関係をめぐる対応はじつに甘かった。
  親ナチス・反ユダヤ主義勢力は、この穴だらけの経路を利用して、ブリテン国内への浸透や影響力扶植をはかっていた。
  第2話の物語は、おりしもこの頃の戦況と社会状況を背景に進行する。

ミルナーの苦悩

  第2話までのドラマの進展状況を、このような戦況を絡めて見ておくと、
  ポール・ミルナーは、1940年4月のドイツ軍の北欧への侵略に対抗するためにブリテンがノルウェイに派遣した部隊の兵員だった。
  ノルウェイ戦線でブリテン軍は、ナチス・ドイツがノルウェイ全域に送り込んだ多数の諜報工作員の情報網によって上陸地点や駐屯地店、兵力規模などについて、ドイツ軍に周到に把握されていたため、手ひどい攻勢を受けて完膚なきまでの壊滅的敗北を喫した。
  ドイツ軍がヨーロッパ大陸全体に構築した対英封鎖体制のため、ブリテンは派兵のための兵站補給体系を構築するゆとりはなく、ノルウェイ派遣軍を支援する態勢を整えられなかった。ミルナーたち派兵部隊は補給も支援も受けることなく、ぼろ屑のように見捨てらて、孤立した戦闘を強いられた。
  ブリテンには戦略どころか戦術すらなかった。こうして、国家の見栄のために多くの兵員が死傷した。

  ミルナーは、その切望的な戦況を自ら体験し、今日付と苦痛をいやというほど味わったはずだ。そして、ミルナーは右足に重傷を負い、下肢切断の治療で辛くも一命をとりとめた。
  ミルナーの心は深く傷つき深刻なPTSDに悩んでいたはずだ。それはまた、彼を絶望的な状況の戦地に派遣した政府の方針に対する疑念に結びついていた。

  そんなミルナーがたまたま休日にロンドンに行ったときに、街中で「フライデイ・クラブ」の主催者、ガイ・スペンサーに出会い、親ナチス・反ユダヤ主義たちの集会に参加することになった。スペンサーは講演のなかで、ドイツとの戦争に反対し、そんな無駄な戦争のために多くの若者が派兵され死傷していることを嘆いた。
  苦悩で心が揺れていたミルナーは、スペンサーの主張にいくつか心惹かれる部分があった。そして、帰り際にスペンサーから反ユダヤ主義を扇動する著書を借りた。

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