刑事フォイル第2話 目次
第2話 臆病者
  犯罪捜査のトリオ
  親ナチス団体の暗躍
  深刻な戦況
  新ナチ・反ユダヤ主義
  ミルナーの苦悩
  のどかな田園風景・・・
  フライデイ・クラブ
  アイザック・ウールトン
  「国民祈禱の日」
  殺人事件発生
  デイヴィッドへの容疑
  ウールトンの正体
  ミルナーとスペンサー
  軍情報部の内偵
  イーディスの後悔
  ファシストの手管
  アーサーの自殺未遂
  手紙の隠し場所
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デイヴィッドへの容疑

  捜査のなかでフォイルは、スペンサーの助手(秘書)のフレミングから「事件の夜(事件前の時刻)に、何者かがホテルの庭に侵入して内部の様子を窺っているのを目撃した」という証言を得た。夜の闇のなかだったので、おぼろげな輪郭しかわからなかったが、がっしりした体格の労働者風で若者のように俊敏に動いていたという。
  フォイルは年齢や風体の輪郭から、その不審者がイーディスの事件の件でホテルの女支配人、マーガレットを非難していたデイヴィッドだろうと見当をつけた。
  そこでデイヴィッドを取り調べようと船着き場を訪れたところ、デイヴィッドは素早く逃げ去ってしまった。
  フォイルはサマンサが運転する自動車で追いかけたが、逃げられてしまった。 しかし、ほどなくデイヴィッドは、近くの駅で網を張っていた警察官によって拘束された。

  ところが、デイヴィッドの身辺捜査のため浜辺を訪れたフォイルに、デイヴィッドの父親、イアンはデイヴィッドの仮釈放を頼み込んだ。理由は、深刻な戦況だった。
  対岸のダンケルクでドイツ軍によって追い詰められたブリテン軍兵士たち――10万名を超える――を救出する作戦に海峡一帯の漁船や商船が動員されることになった。
  広大な植民地帝国を抱えるブリテンは、世界各地での防衛のために海軍艦船をいたる海域に派遣していて、この作戦に利用できる海軍艦艇はごくわずかでしかないため、一般市民である商人や漁師の船舶を動員するしかなくなったというのだ。
  「この作戦に参加するためだ、デイヴィッドを釈放してくれ。必ず息子を連れて帰ってくる。
  そうなれば、ふたたび捕らえて気が済むまで調べてくれ。あの子の無実を証明するために」

  もともとデイヴィッドの容疑については疑念を持っているフォイルは、釈放要求を受け入れた。
  翌朝、近隣の漁船団がベルギー海岸に向けて出航した。浜辺でフォイルたちは海を渡っていく船団を見送った。サマンサは同胞兵士を救出するため、命がけの危険な作戦に乗り出していく漁船団に敬礼を送った。


  翌朝、フォイルとサマンサはふたたび浜辺にやって来た。浜辺にはいくつも急ごしらえの診療所・救護所が受けられ、下船した兵士たちが集められていた。その多くは酷く負傷し消耗していた。サマンサは負傷兵の介助を手伝うことにした。
  フォイルはイアンと会った。イアンは顔を合わせるなり、過酷かつ壮絶な救出作戦の模様を語り始めた。

  「海岸には数えきれないほど多くの兵士たちの死体が転がっていた。生き残っていた若い兵士たちは誰も彼もひどい傷を負っていた。そこにドイツ軍のやつらが砲弾の雨を降らせてきたんだ。
  俺たちは接岸して彼らを船に乗せた。だが、漁船は小さいから、一隻にせいぜい15人から25人だ。
  今回の救出活動で救い出せたのは3万人ほどだ。その前の日にも3万人を連れ帰ったんだ。明日も、その次の日も、とにかく全員を連れて帰ってやる。
  ……デイヴィッドは、海に入って海に落ちた兵士を船に救い上げたんだ。ところがそこに銃弾が降り注いで、息子の身体を貫いた。あの子は死んでしまった。
  俺は必死でデイヴィッドを船に担ぎ上げたよ。何しろ、あの子を連れ帰るってあんたに約束したからな。
  デイヴィッドを担ぎ上げる手間がなければ、あと5人は兵士を救えたんだがな……ちくしょう。
  ……だが、あの子は死んでしまったんだ」

イアンはあふれる涙のなかで、顚末をフォイルに告げた。
愕然としながらフォイルはイアンに告げた。 「ありがとう。デイヴィッドは無実であることが判明したよ」

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