刑事フォイル第4話 目次
第3話 レーダー基地
バトゥル・オヴ・ブリテン
運送業者の殺害
美術品の地方避難
アンドリュウの任務
プロッターは全員女性
ステュアート神父
プロッターの自殺
ペンダントの持ち主
グレイム大佐の死
レイダー基地のスキャンダル
美術品窃盗事件
戦時体制と権力者の驕慢
 
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アンドリュウの任務


戦闘機ホーカーハリケイン


戦闘機スピットファイア

  ところで、その頃、フォイルの息子アンドリュウがスコットランドで戦闘機パイロットとしての訓練期間を終え、空軍司令部の配属命令を受けたのち、任地への移動前にわずかな休暇を得て帰宅した。フォイルが息子から聞き出したところによると、任地については言えないが、配属先はレイダー施設で、そこでテストパイロットを勤めることになったという。
  英独の戦いでは、レイダー基地が重要な問題になっていた。
  ドイツ空軍はブリテン島の空軍基地やレイダー施設を破壊する作戦を展開しようとしていたのだ。対するブリテンは、レイダー探査能力を一刻も早く確立して、ドイツ空軍機の侵攻に備えようとしていた。

  フォイルの息子アンドリュウは、オクスフォード大学を休学して王国空軍 RAFに勤務することになった。当時、エリート大学の多くの学生たちが空軍に徴募された。というのは、最先端兵器としての戦闘機の操縦は飛び抜けて高度な知的能力と身体能力が要求されたからだ。
  離着陸や旋回、上昇運動など機体の制御や機銃攻撃のためには、多数の計器を瞬時に読み取り判断しなければならず、重力に逆らった急激な旋回や上下動では俊敏な身体運動が不可欠だったからだ。
  ケンブリッジやオクスフォードなどのエリート大学の学生たちは、学術研究だけでなくラグビーやサッカー、陸上競技、ボート、クリケットなどのスポーツでも一般市民よりもはるかに高度な運動能力の訓練を経験していたのだ。


  知的ならびに肉体的な訓練度合いが高い若者たちはエリート大学に集まっていたから、空軍は大学生を徴募して航空兵、とりわけ戦闘機乗りとして「促成栽培」しようとしたわけだ。
  人並み優れた知性や身体能力を評価されてエリート大学生が戦闘機乗りになったということ、また最先端兵器としての航空機がとてつもなく高額な機械だということもあって、戦闘機乗りはかつての騎士貴族にも匹敵する軍のエリートだった。彼らは正規の配属先が決まれば、少尉として任官した。
  少尉ということは、軍の最小単位集団の指揮官で、たった1機を操る飛行機乗りたちは、それぞれ騎士のように最小の兵団――1個の騎士には、軽騎兵、厩務係、替え馬の世話役、槍剣の運搬係など10人以上の従士が付き添っていた――を率いる将校として活動するものと見なされていた。戦闘機1機は、陸軍の1個小隊または中隊に匹敵するものと見なされていた。

  アンドリュウは、ブリテンに侵入してレイダー基地に攻撃を仕かけるドイツ軍機の役を演じるのだ。レイダー部隊はそれをレイダーで探知する技能を高める訓練を受けるのだ。つまり、テストは飛行訓練ではなく、レイダー隊員たちの探索訓練―― Plotting training ――だというわけだ。
  このテストは実戦的な訓練で、アンドリュウは探知されにくいように高性能のスピットファイアを操縦して、川に沿った谷間や森の近くを低空で飛行することになる。彼はスコットランド基地での訓練では、戦闘機ホーカーハリケインを操縦した。それに比べてスピットファイアは段違いに高性能だった。
  ところで、英国領空を飛行する友軍機は、味方として識別されるためにIFFという識別信号発信装置を装備していた。友軍信号が発信されないと、対空砲火を浴びることになる。アンドリュウの戦闘機にもIFFが取り付けられていた。

  片や探索手プロッターは、発信電波の周波帯をさまざまに変えて飛行する機体からの反射波を探知しようと技能を磨いていた。

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