配属された基地のレイダー部隊の探索手は全員が若い女性だった。
アンドリュウは配属されたレイダー基地で、そのことを知って驚いた。
その頃ブリテン軍では、レイダー装置の運用はRDF―― Radar Direction Finding :電波探知索敵――と呼ばれた。
アンドリュウを迎えに来たケラー中佐は、「RDFについてドイツ軍はいまだ知識がなく、攻撃対象になっていないようだ」と説明したが、実は間違っていた。ドイツ空軍はブリテンのレイダー基地への空爆を最優先していた。
レイダーとは、さまざまな波長の電磁波を発信して、その反射波を読み取り、航空機の位置や動きを探知するシステムだ。
とはいえ、1940年初夏の段階では、電磁気学が世界で最も進んでいたブリテンでもいまだ開発段階を終えたばかりで、ようやく実戦配備されたばかりだった。
そして、この装置を使いこなすための人材の育成は、まだ道半ばだった。反射電波を検出して飛行物体の位置を割り出す機器の操作は、おそろしく忍耐強くて繊細な手指の作業が必要だった。だから、多数の若い女性をレイダー基地に集めて訓練し、レイダー隊員として育成しようとしていたのだ。
レイダー基地には何本かの高い鉄塔を立ててその先端部から電波を発信した。電磁波は素粒子の運動でありながら同時に波動だから、電波塔から同心円状の波紋を描いて拡散していく。
電波は、主に空中に存在する物体にぶつかると反射する。レイダー基地ではパラボラ・アンテナ――曲面の断面がどこでも2次曲線になっている凹面アンテナ――を回旋させて、この反射波を受信して、その発信源を探ることで、飛行物体の位置を探知する。
位置とは、基地から見た飛行物体の方位と高度と距離だ。つまり3次元的な位置把握だから、基地からの電波発信源――電波塔――は少なくとも3つは必要になる。
基地の電波塔は複数なので、発信源の空間的なズレに対応した電波の位相や強弱差を――受信回路の誘導抵抗と容量抵抗の変化による共振を利用した同調装置で――電気的に読み取れば、飛行物体の位置を索出できるのだ。
しかし、反射する電波はきわめて微弱だ。また航空機の全体形状や表面状態によって、反射波の強さは異なる。
そこで、索敵のためには、航空機に形状に合わせて最も強く反射される周波帯の電波を発信しなければ、探査可能な強さの電波がはね返ってこない。
探査可能な強さの電波は、レイダー装置によってとらえられ、モニター・スクリーンに光の点の集合として映し出される。
したがって、索敵のためには、電波をシンクロナイズさせるきわめて繊細な操作が必要になる。それは、女性の手によるデリケイトで根気強いダイアル操作がうってつけだ。というわけで、若い女性たちがレイダー・プロッター隊員として訓練を受けることになったのだ。
もちろん、兵役に就いた若い男性たちは戦場に送られたり、国内で兵器の操作や塹壕掘りなど危険の多い肉体作業に従事していて、男手が不足しているという事情もあった。
さて、アンドリュウとしては、プロッター隊員として働いている若い女性たちがほとんど全員、過度に緊張し重苦しい雰囲気であることが気になった。
彼はプロッターの一人、アン・ロバーツを戸外でのランチに誘い出して話を聞いてみた。アンは背が高くて端麗な容姿の娘だった。