刑事フォイル 目次
戦時体制と犯罪捜査
戦時下の闇を暴く
シリーズ作品の目次
第1話 ドイツ人の女
  ドイツ人隔離政策
  身分特権と差別
  エリートの特権
  継母と娘の対立
  敵対感情の増幅
  グレータ惨殺事件
  エリートの隠蔽工作
  ジャッドの殺害
  マイケルの欲望
  
第2話 臆病者
第3話 兵役拒否
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戦時体制と犯罪捜査

  TVドラマ『刑事フォイル』の原題は《 Foyle’s War 》で、「フォイルの戦争」と直訳するか、「戦時下のフォイルの闘い」と意訳するか。それとも「犯罪捜査官としてのフォイルの目から見た戦争」「フォイルにとっての戦争」と見るか。いずれにせよ、非常に意味深長な題名だ。
  その深い意味は、これからこのシリーズの物語を追いかけていくにつれて明らかになっていくだろう。

  ブリテンのテレヴィドラマ『刑事フォイル』は、物語の構成や状況設定、時代の描写が飛び抜けて秀逸だ。 第2次世界戦争中のイングランドの政治状況や社会状況をじつに丹念に分析し、事件の背景として緻密に描いている。
  これはイングランド南東部の海岸沿いの町、ヘイスティングズに赴任した警視正フォイルの犯罪捜査の物語のシリーズだが、1940年代前半のイングランド社会の断面をそれとなく分析し描き出すということを課題を追いかけているのではないかと思える。

  最前線の兵士や軍組織で働く者だけが「国家対国家の戦争」で闘っているわけではない。現代の国民国家どうしの戦争では、政治的に組織化された住民集合としての「国民」の政治的凝集力が問われるのだ。
  つまり、この時代の戦争とは、政治的の組織された住民としての国民どうしのあいだで展開される大規模な破壊と殺戮、攻撃と防御なのだ。このような意味での戦争に国民=住民集合を動員するためにナショナリズムや敵国民に対する憎悪や嫌悪(総じて敵対感情)を呼び起こすイデオロギー装置――新聞やラディオなどのメディア、さらには意図的に流される流言飛語――が利用される。
  このような感情や意識は、敵による空爆などの攻撃や破壊、さら知り合いや身内の戦場での死によって増幅されていくことになる。

  社会のあれこれの持ち場で働く人びとも、願うと願わざるとにかかわらず、戦争の巨大なメカニズムに巻き込まれているのだ。
  戦時下の特異な社会状況下で犯罪捜査を進めるフォイルら警察官たちもまた、自分の戦線で職務をこなすことで闘っているのだ。努力と自己抑制を重ね、横やりや圧力を跳ね返しながら。
  上記の意訳の含意はそういう意味だが、犯罪捜査官としてのフォイルは、戦時体制下の軍の権力とか警察組織やコミュニティの権力や権威による圧力をはねのけながら、事件の真相を執拗に追及していく。当然、捜査活動は「国家の存亡」だの「愛国心」だのというスローガンの虚偽性をも暴くことになる。そういう姿勢が反骨的でなかなかにシブくてかっこいい。

◆戦時下の闇を暴く◆

  この時代の社会については、あたかも、ドイツ軍との存亡賭けた戦いのためにブリテン人たちは《ひとつの国民として結束していた》かのようにイメイジされがちだ。
  だが、戦争中、国家による様々な統制や制約を受けながら、銃後社会の人びとは物資の欠乏を受任しながら生活している。そして他方で、殺人た強盗、詐欺、暴行などの犯罪は平時と同じように発生する。
  いや、むしろ平時以上にひどい犯罪も横行すると言ってもいいほどだ。戦争とか戦時体制に乗じて不正や犯罪をはたらき、よこしまな横暴をふるう人びとがいるのだ。
  しかも、ブリテン政治や社会経済の支配階級・エリートたちは従来通りに権力を保持し、あるいは保持し続けようとし、何かと制約の多い生活のなかでその特権を行使して、庶民を欺瞞し圧し潰しても自らの利害と欲望を実現しようとする。

  刑事フォイルの物語で描かれているのは、むしろ戦時体制のもとでこそ平時以上に誘発される不正行為や犯罪も多いという事実だ。
  戦時には政府は人びとの生活に様々な統制・制約を課していく。他方ではまた、戦時ならではの経済活動、とりわけ政府や軍による物資調達が――一般市民の生活を犠牲にして――特権的・優越的に営まれ、それが犯罪や不正行為の苗床となることもある。
  たとえば、当局は情報を統制し、平時のような報道や情報のやり取りを禁止する。また、軍が軍事物資を調達するための契約を結び、特定の経済活動を奨励し育成する。そういう仕組みは、政治の特有の利権や特権などを生み出す。
  そうして市民社会の平常の秩序や人間関係を変形していく。
  そのさい、情報統制や軍事関係機密、軍事物資の調達をめぐる利権が、不正行為や犯罪の温床となったり、それを隠蔽する障壁となることも多い。
  またエリート階級は、その特権的地位や人脈を駆使して、戦時の統制や制約、不自由から逃れたりしようとする。 つまり、平時と同じように、戦時にも銃後の政治や権力の腐敗や歪みが発生するのだ。
  しかも、そのような不公正や格差、歪みが「愛国心」「戦争」という語によって押し隠され、市民の批判の目から覆い隠されていく。だが、階級闘争や利害闘争は戦時下でも独特の変形をともなって、場合によってはさらに醜悪な形態で繰り広げられる。
  そういう状況を、このドラマは容赦なく抉り出していく。
英独開戦への経緯  ⇒英空軍から見た開戦時の戦況

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