さて、サセックス州の本土防衛隊はハーコート准将の指揮下で模擬作戦演習の準備を進めていた。地区の名士として本土防衛隊(義勇軍)の運営幹部会議のメンバーとなっているフォイルは、敵味方――英軍側と独軍側――に分かれての模擬演習で勝敗を見定めるレフェリー役を押しつけられた。
英軍側の指揮官役は、E&E食品の取締役をしているフィルビーだった。対する独軍側の指揮官は、かつてのファイルの部下で、今は兵役に就いて陸軍大尉となっているデヴリンだった。
彼はフランス戦線で負傷し、療養のために一時帰郷して予備役将校となっていたため、一般市民の義勇兵団である本土防衛隊の演習に参加することになったのだ。
戦争に協力しているのは、大人ばかりではなかった。英国各地で小さな子供たちが「資源回収」作戦に誘導されていた。
政府は大がかりなキャンペインを展開して、紙や鉄屑、アルミニウムそのほかの金属などの資源回収活動を子どもたちに奨励していた。州ごとに資源回収のコンテストを企画して、品目ごとに最も多くの資源を回収・供出したグループを表彰して賞金や賞品を授与していた。
大規模な戦争は社会の資源の大部分を兵器や軍事物資の生産に集中配分した。兵器や弾薬などは戦場で大量に消費され、瞬く間に消尽されてしまう。しかも、ドイツ海軍の通商破壊によって、海外からの資源供給も制約されている。
だから政府は、廃棄物となる資源を回収して、兵器や軍事物資の原料として再生・再利用する仕組みを急いでつくり上げた。しかし、成人の男女は兵役や軍需生産のために逼迫していて、そのために動員できる労働力は払底・逼迫している。そこで、児童童を「資源回収ゲイム」に誘導することになったというわけだ。
ヘイスティングズがあるサセックス州でも、各地区の児童たちが企業や団体の事務所や家庭を回って紙や鉄くずなどを集める活動を始めた。当然、子どもたちは警察署にも訪れて、資源回収への協力を求めた。
フォイルやサマンサは、ティム少年たちのグループと顔なじみになった。
ところがまもなく、子どもたちにとっては資源回収競争コンテスト(ゲイム)で勝つことが自己目的となってしまい、ティムたちは小学校に無断侵入して書類などを持ち出そうとするようになった。その侵入現場を見咎められ、彼らは警察署に連れていかれることになった。
フォイルはサマンサから、そんな子どもたちへの教育的指導を求められた。
フォイルが階下のロビーに降りてみると、子どもたちは年配の警察官から「監獄に入れられて強制労働をさせられるかもしれない」という脅しを交えた説教を受けていた。子どもたちは少し怯えた顔つきだった。
フォイルは彼らの「不法侵入」を大目に見る代わりに、サマンサを回収部隊の隊長に任命し、その指導を受けるようにはからった。
その後、子どもたちの回収活動は「体系立ったもの」になり、回収物は「保管倉庫」に集められるようになり、休憩と「おやつ」の時間が定められた。とはいえ、大人の目を盗んで行動し、失敗し成長するのが子どもたちの行動スタイルなので、サマンサの目が届かない場合も多かった。