翌日、資源回収に燃える子どもたちは、ウォーカー邸の裏庭で大量の書類の束が燃やされているのを知った。邸宅と庭園を取り顔む塀の上から顔を出して、ティムたちは憤慨していた。
「あれだけの書類を資源回収に出さずに燃やしているのは間違いだ。紙資源の無駄遣いだ。
何とか忍び込んで、紙の束を回収できないだろうか。あれだけの紙があれば、コンテストで優勝できるね……」と。
彼らは政府の宣伝をつうじて、紙が再生されて銃弾の薬莢内包材となることを知っているのだ。
子どもたちには彼らなりの正義感や倫理観がある。先頃、小学校の無断侵入して懲りたにもかかわらず、ふたたび無断侵入を試みようとしていた。彼らは紙資源を燃やして浪費してしまうという大人たちの行動に強い疑念を感じたのだ。
こうして、女の子を塀の外に残して、男の子3人は邸宅に忍び込んで紙を持ち出そうとした。ところが、焼却場から書類を持ち出そうとしたところをサイモンに見つかってしまった。
サイモンは獰猛な番犬2頭を解き放って、書類の束を抱えて逃げる子どもたちを襲撃させた。命じたのはレジナルドだった。
そういう冷酷で残酷な行為を、会社の利益のために平然とできる夫の姿をアリス――美貌の中年女性でレジナルドの再婚相手――は嫌悪感に満ちた目で見つめていた。
一方、逃げ出そうとして必死に走っていた男の子のうち、2人は無事に塀を乗り越えることができたが、ティムは遅れたため、塀を乗り越えるさいに脚を猛犬に噛まれて深い傷を負ってしまった。膝から下が血だらけになってしまった。
それでも子どもたちは、ケガをしたティムを手押しワゴンに乗せて、何とか資源保管倉庫まで逃げ帰ることができた。たまたまそんなところに子どもたちの監視と指導に来たサマンサは、ただちにティムをクルマに乗せて病院に運び込み、治療を受けさせた。そして、この事件をフォイルに報告した。
子どもたちがウォーカーの屋敷から書類の束を持ち出して猛犬に襲われたという出来事を聞いたフォイルは、ミルナーとともにサマンサの案内で回収した資源の保管場所に行って捜索し、ウォーカーたちが焼却しようとした書類を探し出した。
その場所には山のように古紙が集められ積み重ねられていた。
そのなかには、ナチス政権の弁務官(国際交渉代表部)が発行した、ドイツへの食用油の供給契約と引き換えにE&E食品への没収資産の返還を約束する文書があった。サイモンは、代表部弁務官付き親衛隊将校と秘密交渉をおこなっていたのだ。