山猫 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
滅びの美学
滅びゆく者
ヴィスコンティの歴史観=人生観
シチリアの歴史
1860年5月
ガリバルディのシチリア遠征
侯爵の浮気心
タンクレーディ
未来を夢見る者
リソルジメントの現実
避暑地ドンナフガータで
新たなエリート
タンクレーディの恋と打算
投票結果の欺瞞
タンクレーディの婚約
カロージェロの評判
タンクレーディの凱旋
タンクレーディの野心
おお、ヴィスコンティ!
滅びの美学
上院議員就任の拒絶
夜会の舞踏会
黄昏を見つめて
《山猫》へのオマージュ
シチリア史の特異性

1860年5月

  19世紀半ばを過ぎても、イタリアは分裂し、強国に従属していた。北イタリアの半分以上(ロンバルディーアやベネートの大半)はオーストリア帝国に支配され、北西部(ピエモンテ)はフランスの影響下にあった。ミラーノ公国やヴェネツィア公国などは足の引っ張り合いを繰り返していた。中央部は教皇領邦、南部はナーポリ=シチリア二重王国に分裂していた。
  こうしてイタリアは数多くの公国・侯国に分割されていた上に、その内部の有力都市も自立的な特権を手放さなかった。イタリアは無数の小さな関税圏に分裂し、市場と経済は関税障壁によって分断されていた諸都市や君主、貴族たちは、それぞれに既得の権益にしがみついていて、イタリアの統合には強く抵抗していた。
  この分裂と分断がイタリアの列強諸国家への従属をより深めていることに気づきながら。
  むしろ特権的支配層ではなく都市の知識人や専門職層が、イタリアの国民的統合=自立という課題こそが「近代化」と「民主化」の不可欠の条件であると認識していた。

  ところが、急速に勢力をのばしていたサルデーニャ=ピエモンテ王国の歴代の王たちは、王権の拡張には貪欲だったが、イタリアの国民的統合という課題には及び腰で、意図的に目を向けていなかったふしがある。
  というのも、イタリアの国民的統合のためには、主要な諸地方を制圧支配している大国、オーストリア帝国に独立闘争を挑まなければならないからだ。この強国への挑戦の試みは、何度となく叩き潰され、挫折していた。
  サルデーニャ公(ピエモンテ王)は、しんどい戦争よりも、強国の勢力争いのなかで綱渡りをしながら「漁夫の利」を得るための政略に意を注いでいたのだ。

ガリバルディのシチリア遠征

  ところが、ピエモンテ王国の宰相にカヴールが就任してから、偶然にも状況は、ピエモンテ王国主導でのイタリアの国民的統合に向けて転がり始めた。
  まず、オーストリア帝国との対決が深まっていたフランス帝国(ナポレオン3世治下)が、ヨーロッパでの勢力争いを有利に進めるため、ピエモンテの一部(サヴォイア)とニースの割譲を条件としてイタリアの統一、すなわちオーストリアとの対決を支援しようとしていた。
  そして、イタリア各地で君主や貴族たちの無能力に痺れを切らした民衆が抵抗や反乱闘争――これらはそのつど、孤立のなかで潰されていた――が続発していた。諸公国や有力諸都市の統治装置が機能不全に陥り、麻痺し始めていた。
  この危機に呼応して、それまで革命的蜂起や独立闘争に失敗してイタリアから亡命していた政治指導者たちが、連絡委員会を組織しながらガリバルディを説得して、シチリアからローマまで遠征して、統合に反対する君侯たちの権力を討伐しようという大遠征の指揮に赴かせた。

  ピエモンテ王ヴィクトル・エマヌエーレ2世は、革命家、ガリバルディからの連隊編成・派遣要求を無視していた。が、「ピエモンテ王国の旗の下に集結しよう」という世論が独り歩きしたせいか、1860年春にはイタリア各地から志願兵と寄付金が集結した。
  この志願兵からなる「千人連隊」では、ジェーノヴァ港から海路でシチリア西部に向けて進発する作戦が立てられた。
  ピエモンテ王はこの遠征に反対していたので、サルデーニャ沿岸で阻止するつもりだったが、千人連隊の船舶ははるか沖合を通航したため、作戦は自然発生的に始まってしまった。
  ガリバルディ旗下の遠征隊は、5月1日、シチリア西端のマルサーラに上陸した。ナーポリ王軍はすでにこの港から撤退していた。
  その2週間後、遠征軍とボルボーネ王軍との戦端が開かれた。緒戦に勝った遠征軍はパレルモをめざした。遠征軍には、シチリアの若者からなる志願兵組織、ピッチョッティ(青年派)が合流した。パレルモの攻略を開始した遠征軍は、市街戦を制してこの都市を支配することになった。

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