見どころ
これは、世界有数の巨大銀行でありながら世界の闇の金融ネットワークに君臨する IBBCの犯罪を追求するICPOの情報官の苦闘を描く物語。
IBBCは、欧米主要諸国の情報機関や軍事組織と深い結びつきがあるため、この金融機関が世界金融のブラックマーケットに深くコミットしているのは公然の事実でありながらも、主要国政府はその違法活動や経済犯罪を敢えて見逃している。まともに捜査すれば、自国や軍事大国の後ろ暗い軍事機密や諜報活動が暴かれてしまうかららしい。
だが、ICPO――政府組織間の調整連絡機関であって固有の捜査権は持たない――の情報調整官ルイス・サリンジャーは、ニューヨーク州検事局マンハッタン支局のエレノア・ウィットマンと連携して、IBBCの違法な武器貿易とこれに絡む殺人事件を執拗に追及する。しかし、IBBCの富と影響力は絶大で、捜査はその厚い壁にはね返されてしまう。
もちろん社会派の作品ではあるが、アクション映画としてつくられているので、この金融組織の底知れない権力と闇は十分に描き切れているとはいえない。
けれども、それ自体独特の権力構造をなしている世界金融システムが、組織犯罪や国家の軍事や残酷な秘密活動と密接に絡み合っている状況を垣間見せてくれる作品である。
2008年11月、冬支度を急ぐベルリン。
ベルリン中央駅 Berlin Haupt-Bahnhof の駐車場に1台の乗用車が停まっていた。その車を駅前大通りの反対側から見つめる男がいた。ICPOの情報調整官ルイス・サリンジャーだった。彼は以前、ブリテンのスコットランドヤードの捜査官だった。
ルイスは曇りがちの表情で、乗用車の様子を眺めていた。
車のなかでは、ルイスの同僚のトミー・シューマーが裕福そうなビズネスマンと話し合っていた。ビズネスマンは、アンドレ・クレマンというベルギー人で、IBBCの上級副社長の地位にある。クレマンは、先頃ひそかにICPOに「内部告発」をおこなった。
内部告発の内容は、IBBCの武器取引に関するものだった。主要諸国で金融機関としての認可を受けているIBBCは武器取引には直接関与できない――民間の軍事顧問会社や偽装した「死の商人」に対する融資は大っぴらおこなわれているようだが。つまり、利子という形態で武器貿易の商業利潤の再分配に参加するよりも、潤沢な資金を裏打ちとして武器取引に直接参加して商業利潤をそっくり手にしたいというわけだ。
しかも武器を売りつけようとする相手は、内紛・内戦が起きているアフリカの国の反政府勢力だった。そのうえ、IBBCは核弾頭を搭載できる長距離ミサイルの誘導システムの取引にまで手を伸ばそうとしているらしい。