国際刑事警察機構ICPOは、政府間調整組織 intergovernmental cordination であるため、個別国家ごとに設定されている司法管轄権 jurisdiction を持ちえない。したがって、どこかの特定の国(固有の法圏)において法の執行(捜査や逮捕など)をする権限を持たない。
あくまで政府間・警察組織間の情報連絡と調整や後方支援に活動が限定されている。それゆえ、法の執行の手段=形態としての銃や手錠の携行は認められない。銃を保有するとすれば、あくまで個人の資格(銃所持の許可を受けて)で携行するしかない。
この点に関して、この作品は制度に忠実に映像物語を構成している。
だが、関係者の死はそれだけにとどまらなかった。
内通者のアンドレ・クレマンはトミーと別れてから9時間後、ルクセンブルクで交通事故にあって即死した。IBBCのCEO、ヨーナス・スカルセンの住居で夜遅くまで打ち合わせをしての帰り道でだった。
ルイス・サリンジャーは、クレマンの死亡事故の調査のためにスカルセンに面談を申し込んだ。事件当日のクレマンの退出時間を確認するためだった。
翌日、約束の時間にIBBC本部を訪れたが、スカルセンはサリンジャーを尻目に、幹部たちと外出してしまった。スカルセンの代わりに待っていたのは、IBBCの法律顧問のマーティン・ワイトだった。
マーティン・ワイト弁護士は、ルクセンブルク国家警察のヴィヨン警視をともなっていた。つまり、IBBCは、ルクセンブルク王国の司直権力をも抱き込んでいるわけだ。そのため、ルイスは事故当夜のクレマンの退出時刻については、事後にIBBCに都合よく書き換えられた情報を得ただけだった。
内通者の死亡という悲惨な結果は、すぐにニューヨークのエレノア次席検事に報告された。
エレノアは上司の許可を強引に得ると、単身、ヨーロッパに飛んで来た。サリンジャーと協力してヨーロッパでの調査をおこうためだ。
というのも……
エレノアがニューヨークからクレマンの妻に連絡を入れたところ、妻は自宅の電話や会話がIBBCの手先と思われる相手によって盗聴されていると疑っていて、電話ではまともな返答をしなかった。その代わりに電話で問い合わせた事項について、チャットメイルで率直な返答を寄せてきたからだった。
クレマンの妻の返答によれば、クレマンはIBBCの武器取引をめぐってヨーロッパで最有力の兵器製造企業との交渉を担当していたという。違法な活動になるおそれがあることから、クレマンは悩んでいたという。クレマンの妻は「ウンベルト・カルヴィーニと話してみなさい」と助言した。
ウンベルト・カルヴィーニは、イタリア、ミラーノに本部を置くヨーロッパ最大の防衛関連企業コンツェルンのCEOだった。
ルイスは、その日の真夜中、ミラーノ市警察でICPOとの連絡係を担当している捜査官アルベルト・チェルッティの住居を訪ねた。深夜の訪問にチェルッティは驚いた。
ルイスは、アルベルトを室外に呼び出そうとした。というのは、彼の住居には盗聴装置が仕掛けられている疑いが強かったからだ。
事実、電話機には盗聴用チップが埋め込まれていた。IBBCの保安組織の手はヨーロッパ中の警察機構におよんでいるようだ。