事件直後、ルイスとエレノアが狙撃の現場となったホテルに駆けつけた。そのとき、ルイスは、ロビーから出ていく長身の男を目撃した。
すると、ルイスの脳裏にトーマス・シューマーが死亡する直前の光景がよみがえった。
トミー・シューマーが苦しみ出す直前、車から降りて大通りに向かって歩いているとき、彼のすぐ後ろを横切った長身の男がいた。おそらくその男がトミーにシアン化合物を注射したのだ。ホテルから出ていったのは、その男と同一人物だった。
ルイスは「あれがカルヴィーニを暗殺した真犯人だ」と判断して男を追跡した。エレノアとアルベルト・チェルッティも後を追った。だが、優秀な暗殺者である長身の男はルイスたちの追跡を巧みにかわして消え去ってしまった。
■現場に残された証拠■
その夜、ルイスとエレノアはアルベルトの案内で狙撃現場に戻った。
ルイスは、カルヴィーニの頭部を貫通した銃弾が残した弾痕がステイジの施設に残っているのを発見した。そのすぐ下にももう1つ弾痕があった。2つの弾痕は入射角が違っていた。
つまり、カルヴィーニを狙った銃弾は高さの違う2か所から発射されたのだ。カラヴィニエッリ隊に射殺されたスナイパーがいた部屋の上、屋上にもう1人狙撃者が配置されていたのだ。
カルヴィーニを殺したのは、その狙撃者だ。つまり、暗殺を命令した者たちは、ダミーの容疑者を仕立て上げて、その男を始末して真犯人の逃亡を幇助したのだ。だとすれば、カラヴィニエッリの隊長はIBBC抱き込まれているはずだ。
ルイスとエレノアはホテルの屋上を捜索して狙撃場所を特定した。
地元の警察組織の応援を得て屋上の狙撃地点の周囲を捜索すると、暗殺者の残した靴の跡が発見された。特殊な靴跡だった。ミラーノ市警の鑑識によると、その靴跡は世界でも数が限られた高級な義足専用の靴によるものだと判明した。
そして、暗殺者と思しき男はその日の早朝、ティモシー・M.シャーウッドという名前のアメリカ人としてミラーノ空港に降り立ったことも把握された。対テロ警戒のために空港の税関や検問所に設置された監視カメラの映像メモリーに、その男の姿が残っていた。だが、その人物は――監視カメラの位置を把握していて――カメラに向かって顔を向けることはなかった。その男は、高度な訓練を経た熟練の暗殺者だったのだ。
そして、T.M.シャーウッド名義のパスポートを持つ男は、その日の午後にミラーノから飛び立ちニューヨークのJFK空港に戻った記録も残っていた。容疑者を追跡・特定する手がかりがいくつも手に入った。
ところが、ミラーノ警察の鑑識を阻止するためにカラヴィニエッリの隊長――IBBCに買収されている――が乗り込んできた。イタリア国内では司法管轄権を持たないICPOのルイスとニューヨーク検事局のエレノアの指揮のもとでイタリアの警察組織が動いていることの不当性を訴えたのだ。
ルイスとエレノアは退散するしかなかった。