ザ・バンク 堕ちた巨像 目次
国際金融権力の闇
原題と実在の事件
見どころ
ベルリン中央駅前
連絡官の暗殺
クレマンの死と兵器取引
カルヴィーニ暗殺
暗殺者を追い求めて
世界企業の犯罪と個別国家の障壁
ニューヨークでの捜査
美術館での銃撃戦
復 讐 戦
されど不死身の金融組織
IBBCのモデル…
反グローバリズムの陥穽
銃撃戦の舞台はなぜ美術館…?
首都の有力銀行乗っ取り計画
BCCIの策謀の顛末

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国際金融権力の闇

  つい先頃、タックス・ヘイヴンをめぐる世界的な金融スキャンダルの重要な証拠記録を含んでいるとされる「パナマ文書 Panama Papers 」なるものがマスメディアとジャーナリズムでセンセイショナルに取り上げられた。
  世界各国の大富豪や金融資産家、大企業とその経営者たち、そして有力政治家などが自らの金融資産への課税を逃れたり、国際金融投資や投機に回す資金の経路や利益を隠したりするために、パナマやケイマン諸島などの租税回避のからくりを巧みに利用している事態の一端が暴露された。
  パナマ文書は膨大な量の資料であるため、ジャーナリストらによる分析や検証にはまだ相当の時間と手間が必要だという。果たして、国際金融の闇はどこまで解明されるのか。私はこの問題は、いつの間にやら尻切れトンボになるだろうと思っている。
  それは、こういう理由による。
  各国政府とも自国の秘密情報機関が国外での非公式・非公然の活動のためにタックス・ヘイヴンを含む世界金融の「闇の経路」を巧みに利用しているため、パナマ文書の分析・追跡・検証のために鍵となる情報を握っている。そこで、パナマ文書に含まれる決定的に重要な金融スキャンダルに関しては、秘密資金経路に絡む場合が多いので、そういう諜報活動の暴露につながる情報を公表しないだろうからだ。
  ことほどさように、世界金融における権力構造は、多くの大国や大企業の存立、安全保障……つまり権力構造のなかでも醜悪で腐臭を放つ部分にかかわっている。そのため、かなり悪どい犯罪やら陰謀、場合によってはテロリズムにつながっているにもかかわらず、各国政府や財政当局は国際禁輸期間のスキャンダルには捜査や規制の手を伸ばそうとしないのだ。

  ところが、2006年から兆候が見え始め、ついに2008年にリーマン・ショックとして顕在化した金融危機のなかで、あまりに目に余る危険な金融機関のいくつかは経営破綻し、そのスキャンダルをめぐって――ある部分については――有力諸国の金融当局や捜査機関による摘発のメスが入れられることになった。
  危機に瀕した世界金融のシステムと現今の権力構造にとって、その存続と安定化のために摘発・除去しなければならない癌細胞と目されるところまで腐敗と財政破綻が深刻化したということだろう。

  2009年公開のこの映画は、ある国際金融機関(銀行)のスキャンダルの捜査・摘発の経過を描きながら、国際武器取引の問題や「最貧国」の債務問題など、20世紀後半〜末の世界経済の深刻な危機の兆候を取り混ぜてサスペンス劇に仕立て上げた物語になっている。
  映画の物語のモデルとなった金融機関とそのスキャンダルは実在した。そして、その銀行が絡んだ国際的な謀略が展開されていたのだ。

原題と実在の事件スキャンダル

  この映画の原題は The International で、定冠詞+形容詞は「そういう性質を持つ存在とか集合」を意味するので、ここでは「国際的なるもの」という思わせぶりなタイトル。もう少しこなれた邦訳にすると「国際金融組織」とでもなろうか。
  この映画は、国際商業信用銀行 Banque de Cmmerce et Crédit Internationale : BCCI という、かつて実在した怪しげな国際金融組織をモデルにした IBBC (国際ビズネス信用銀行)という国際銀行の犯罪と腐敗、そしてそれを捜査する捜査官たちの奮闘を描いた作品。
  IBBCは、ルクセンブルクに本部を置く巨大な国際信用銀行。

  ルクセンブルクといえば、スイスやモナコと並んで、ヨーロッパでは名だたるタックスヘイヴン――租税回避場所:ヘイヴンは天国ではなく「隠れ場所」という意味。
  だから……預金者、口座開設=取引者の匿名性、取引内容の隠匿、つまりは課税の根拠となる情報を闇に消すには、もってこいの国の1つだ。というわけで、世界中の怪しげな組織と資金のかなりの部分が、ルクセンブルクの金融組織――一般企業の看板の法人登記ままでも金融業は自由にできるOK――に流れ込み、そこをつうじて取引の痕跡を消すことができるという。
  IBBCはかつては汚れた資金の洗浄回路(当然、法外な手数料を取る)とか、リスクの高い商業信用で稼いでいたが、最近、武器の国際取引にも手を染めている。もちろん、取引の実態やら資金の出所や流れ先は秘密・秘匿のヴェイルの覆われたままだ。

  というのも、この銀行は欧米の主要国政府御用達の手形をもらっているのだ。
  当局の監視やら規制やらを受けるどころか、各国政府の非公然の資金ルートとして重宝がられて、むしろアメリカやブリテン、はてはアラブの「悪漢国家」政府によって手厚い保護を受けている。それゆえまた、武器密輸組織やら、兵器産業、軍需企業などとは古くからの「腐れ縁」で結ばれている。
  したがってIBBCとしては、それが大規模な金融・財政資金の流れと結びつき、莫大な権力と利権に結びつくなら、大がかりな国際武器取引に参入しないはずがない――もちろん各国の武器輸出規制の網をすり抜けて。こうして、暗闇は広がるばかりである。
  ・・・まあ、そういうことどもが題名が示す「国際金融組織」の正体だ。
  その暗闇を、同じ体質の国際銀行が2000年代初頭にも存在していたとして……という状況設定で、その国際金融犯罪や殺人、武器密輸犯罪を暴こうとするICPOの情報管理官サリンジャーとニューヨーク州検事局の金融犯罪担当の女性検事エラ、そしてその仲間の苦闘を描いているのが、この映画。

  さて、モデルとなった実在の銀行 BCCI は26年ほど前に破産して、公式には金融市場から退場した。
  その銀行は、数え切れないほどの国際金融犯罪、マニローンダリング、CIAやアメリカ軍の非合法の活動(にともなう送金)に深く関与していた。アメリカ政府だけでなく、アラブの過激派やアルカイーダなどのテロ組織、マフィア、カモッラ、中国系マフィアなど、闇の暴力組織も絡んでいた。

  1980年代、アメリカ政府は、そのときまだ存在していたソ連陣営に対抗するために、アラブ過激派とも結託してアフガンでのゲリラ活動を支援するために、武器供与のためのルートを共同開拓し、BCCIをつうじて資金を供給していた。オサマ・ビン・ラディーンをテロ組織の指導者に育て上げたのも、アメリカ政府で、その闇資金供給の主要なルートがBCCIだった。
  アメリカ政府は、国際金融犯罪そのものと、その温床を追及、抑圧、訴追するどころか、公にできない作戦の資金ルートとして保護育成していたのだ。そして、結果的には、2001年9月11日のテロへの道を準備していたことになるわけだ。
  しかも報道によると、あろうことかイラクとアフガンへの侵攻を決定したブッシュ大統領の家門――大富豪家系だ――は、サウディアラビアの王族やらオサマ・ビンラディンの家門とも親しくて、この金融機関をつうじて資金をやり取りしていたとか。

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