ザ・バンク 堕ちた巨像 目次
国際金融権力の闇
原題と実在の事件
見どころ
ベルリン中央駅前
連絡官の暗殺
クレマンの死と兵器取引
カルヴィーニ暗殺
暗殺者を追い求めて
世界企業の犯罪と個別国家の障壁
ニューヨークでの捜査
美術館での銃撃戦
復 讐 戦
されど不死身の金融組織
IBBCのモデル…
反グローバリズムの陥穽
銃撃戦の舞台はなぜ美術館…?
首都の有力銀行乗っ取り計画
BCCIの策謀の顛末
おススメのサイト
国際金融スキャンダルの闇
神の銀行家たち
ゴッドファーザー V
プロローグ

されど不死身の金融組織

  こうして、違法活動の限りを尽くしてきたIBBCの経営陣は崩れ去った。
  ところが、ルイスやエレノアが目にした現実は、IBBCは解体されることも破産することもなく、新たな別の経営陣によってこれまでどおり世界の最有力の金融機関の1つとして、経営が存続することになったということだった。
  つまりは、IBBCの手の込んだ国際金融取引きの奥深い闇は解明されることもなく、継続しようとしているわけだ。世界のほとんどの国は、IBBCの支店や支社の自国内で存続と事業の認可を取り消すこともなかった。
  要するに、諸国家の統治階級や経済的支配階級にとって、IBBCの存在と活動は必要なものと認められているわけだ。必要とされる限り、IBBCは生き延びるだろう。いや、IBBCという個別企業は破綻し消滅しようとも、同じような機能=役割を演じる閥の組織や企業が存在し続けるのだ。

  というわけで、この映画は「勧善懲悪」の物語ではない。悪辣な手口で国際的に金融資産を増殖させる勢力に対して市民が抵抗する必要はあるものの、その抵抗が成功を収めることはめったにないという現実世界の秩序の重苦ししさ、それこそが物語の主人公なのかもしれない。
  しかし、市民が抵抗を示さなければ、闇の国際金融権力はますます増長し無慈悲な横暴を繰り広げることになる。つまり、私たちは批判の目を向け続けて、蟷螂の斧のように小さな抵抗を試みるしかないということだろう。

■IBBCのモデルとなった実在の金融組織■

  すでに見たように、この物語に登場するIBBCは、実在した金融組織をモデルにしている。
  そのモデルとは、BCCI(国際商業信用銀行)である。
  BCCIは、1972年、パキスタンの大富豪の金融家、アグハ・ハサン・アベーディによって創設され、その後またたくまに世界的規模での金融ネットワークを構築して急膨張し続けたが、1980年代半ばから数え切れないほどの金融疑獄や経済犯罪などのスキャンダルが発覚して破綻状態に陥り、アメリカなどの主要な政府の訴追や追及を受け、ついに1991年、強制的に閉鎖・解散させられた。

  1980年代に発覚したスキャンダルは、違法な国際的武器取引や麻薬資金の送金や洗浄、犯罪組織の資金取引への関与、脱税などだったが、主要諸国の政府機関も深く絡んでいた。
  BCCIの非公式の主要顧客には、アメリカのCIAやブリテンの軍事情報部(MI)、フランスの諜報機関、イタリアの右翼とマフィア、そしてヴァティカン銀行などが名を連ねていたらしい。そして、BCCIを利用した金融取引きや国際送金の先には、根深い金融犯罪やスキャンダル、テロ事件の関係者・容疑者たちがいたようだ。
  要するに公にできない国際的な送金ルートとして利用されていたようだ。

  とはいえ、アメリカ司法省や関税局、元老院委員会による捜査や調査では、政府や有力政治家や財界人の疑惑の実態のほとんどは解明されることはなく、その代わりに証拠を揃えやすい麻薬資金の洗浄や送金、外国政府高官の買収、脱税や脱税幇助などの犯罪が検証され、事業と組織の解散・閉鎖に追い込まれた。
  言ってみれば、アメリカの議会と政府は自分たちに都合の悪い事実が暴露される前に、そういう表向きの犯罪を理由として、BCCIを閉鎖解散に追い込み、根深いスキャンダルに蓋をしてしまったということだろう。
  BCCIは主要国政府組織――ことに軍部や情報部――と癒着していて、どこの政府も手を出しかねていたが、そのやり方が目に余るほどに露骨で悪辣になったうえに、アメリカやブリテン政府の敵対勢力にさえ兵器や資金を供与している疑惑が高まったため、ことさら各国政府にとって都合のよい理由をあげて、破壊されてしまったようだ。
  つまり、スケイプゴウトとして血祭りに上げられたのだ。
  それでも、欧米の金融情報誌の記事や政府・議会の報告書などを読むと、BCCIの底知れない闇の世界が推測できる。

■迷宮のようなグループ企業ネットワーク■
  1970年代に急膨張したこの金融コンツェルンは、闇の金融市場あるいは経済=金融犯罪に手を染めるほかの金融組織の多くと同じように、企業グループの全貌や結びつき、資金循環経路などの痕跡を外部に知られないような、複雑に絡み合ったクモの巣ウェブをなしていた。
  名目上の本拠はロンドンに置かれていた。だが、金融機関本体としての会社登記はルクセンブルクでおこなわれ、有力な相互持ち株会社の1つはグランドケイマンに置かれていたりと、面妖怪奇な組織構造を備えていた。
  違法送金や脱税、マニ―ローンダリングの典型的な経路を絵に描いたようではないか。
  BCCIホウルディングズ本部はロンドン、それと株式を相互持合いするBCCI−SA(匿名会社)はルクセンブルク、BCCIオーヴァーシーはグランドケイマンにあった。そして、78か国に合わせて400もの事業部門や子会社、関連会社、支店を保有していた。
  これらのブランチはそれぞれ固有のクモの巣の中心をなしながら、上記の3つの本拠を中枢とする巨大なネットワークのなかに組み込まれていた。したがって、巨額の資金がひとたびこの金融コンツェルンの組織に流れ込めば、またたくまに移動や輸送の痕跡が跡形もなく消えてしまうのだった。

  ところが、BCCIの存在があまりに政治的に危険になったばかりか、最終決済能力の確証を欠いた巨額の金融証券の仲介者となり、しかも自己の支払い能力も怪しくなり、金融システムの安定性にとってもきわめて危険になったことから、アメリカを中心とする現今の世界の金融トップ権力によって排除されるににいたった。

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