ルイスはヴェクスラーを説きつけ、イスタンブールでのアフメード・スナーイとの交渉の会話を録音して、IBBCの武器取引の証拠をつかもうとした。が、その作戦は失敗することになる。ルイスは復讐心からスカルセンを殺そうとして追跡した。しかし、その追跡劇には意外な結末が待っていた。
スカルセンがアフムードと直接交渉に臨むことになったのは、カルヴィーニ兄弟が父親ウンベルト殺害がIBBCの仕業と知って、報復を仕かけてきたためだった。そこにいたる経緯はこうだった。
父親の死後、ヨーロッパ最大級の先端兵器産業の経営を継承したエンツォとマーリオ兄弟は、IBBCのCEOスカルセンのVALCON購入の申し出に対して好意的だった。というのも、父親がIBBCを嫌悪していて、ヴァルコンの販売を拒んでいたことを知らなかったからだ。
ところが、ルイスはIBBCのヴァルコン購入を阻止するために、ウンベルト・カルヴィーニ殺害の背景と経緯をカルヴィーニ兄弟にリークしたのだ。
父親殺害の真相を知った兄弟は、IBBCの申し出を受ける振りをしながら交渉を継続して、IBBCへの「血の報復」の機会を窺っていた。カルヴィーニの会社はヨーロッパ最先端の企業だが、非公式にシチリア・マフィアやカモッラのような組織をともなっているわけだ。
IBBCはカルヴィーニ兄弟の表向きの態度を真に受けて、いよいよ最後の売買契約に調印する運びまで持っていった。契約調印は、兄弟からの招待で、地中海の別荘でおこなわれる予定だった。IBBCの代表は、顧問弁護士のマーティン・ワイトと上級副社長だった。
ところが、調印の場に向かったマーティン一行は、そのまま行方不明になってしまった。カルヴィーニ兄弟が子飼いの護衛組織――というよりもガンマンたち――を使って皆殺しにしたのだ。スカルセンはまもなく、マーティン一行の失踪の原因を調べた結果、カルヴィーニ兄弟が父親殺害の報復を狙っていることを探り出した。
カルヴィーニ兄弟の兵器会社との交渉が頓挫したスカルセンは、ミサイル誘導装置の購入をアフムードからおこなうことに計画を変更した。そこで、急遽、イスタンブールで会見をおこなうことになったのだ。
■スカルセンに迫るもう1つのの影■
さて、スカルセンとマフムードとの会見・交渉は、古い神殿(遺跡)のなかでおこなわれた。ヴェクスラーは神殿の外にとどまった。というよりも、マフムードの護衛たちがスカルセン以外の者の侵入をゆるさなかったのだ。
だが、ルイスは盗聴マイクからの電波を拾うために、神殿のなかに忍び込んだ。
とはいうものの、スカルセンとマフムードの会話が肝心なところに差しかかったとき、ルイスは護衛に見つかって神殿の外に追い出されてしまった。というわけで、スカルセンの武器の違法取引への関与をを完全に証拠立てるような会話は収録できなかった。
スカルセンの商談を盗聴・記録する試みを諦めたルイスは、神殿の外で待っているヴェクスラーに近寄り話しかけたが、反応がなかった。ヴェクスラーは殺されていた。何か得体のしれない動きがあるようだ。
神殿から出てきたスカルセンも、ヴェクスラーの死を知って、怯えたように逃げ出した。ヴェクスラーを射殺してスカルセンに迫る人物がいるようだ。
それにしても、ルイスは――家族を殺されたという恨みもあって――IBBCのCEOとしてのスカルセンの悪辣な行動が許せなかった。そこで、銃を取り出してスカルセンを追跡した。尾行に気がついたスカルセンは、イスタンブールの街のなかを逃げ回った。執拗に追い続けるルイス。
やがて、スカルセンは市場街の屋根に逃げ道を求めた。
日干しレンガや石で造られた建物の屋根伝いに逃避と追跡が繰り広げられた。結局、スカルセンは屋並みの途切れた場所まで逃げて、追い詰められた。
ルイスは銃把を握ると銃口をスカルセンに向けた。警察官としての規矩と復讐感情とのあいだで板挟みになっているルイスは逡巡した揚句、引き金を引こうとした瞬間、彼の後方で大きな銃声が響き、スカルセンが倒れた。
ルイスの後ろには、イタリア系の男が立っていた。男は、茫然と見守るルイスの横をすり抜けると、倒れ込んだスカルセンに近づき銃撃してとどめを刺した。
男は、死にゆくスカルセンに向かって「エンツォとマーリオからだ(ウンベルト・カルヴィーニ暗殺に対する報復だ)」と告げた。
男は振り返ると、ルイスに声をかけた。
「スカルセンを追い詰めてくれてありがとう。おかげで、仕留めることができた」
そう言い残して男は去っていった。