これから「事実は小説よりも奇なり」という諺を地で行く現実を語ろうと思う。
この映画の主人公ルイスがIBBC専属のコントラクト・キラーを追い詰め、IBBCが送り込んだマフィア系の殺し屋たちと銃撃戦を展開する舞台は、《グッゲンハイム現代美術館》だった。
内部の設計仕様が巨大な円形螺旋回廊だったことから、派手な銃撃戦の演出に最適だったというのが、おそらくは表向きの理由だろう。
だが、私の勝手な憶測はこうだ。
この美術館の創立と運営主体の背後には、グッゲンハイム・コンツェルンが控えている。グッゲンハイム財閥といえば、アメリカのヘゲモニーセンターとしての《軍産複合体》を構成する有力資本である。それも、核兵器開発・核技術の独占支配の権力装置の一角をなすグループである。
グッゲンハイムといえば、今では金融コンツェルンであって、兵器や核技術開発・運営などのテクノロジーからは一歩退いている感がある。が、もともとは、北アメリカ西部でのウラニウム鉱開発・採掘・精製などの放射性金属の開発を先導したパイオニア企業だった。GEとかウェスティングハウス、デュポンなどと肩を並べる、軍産核複合体の中核をなす企業で、核技術や核燃料の独占体制を担ってきた。
ペンタゴンと結びついた製造業から巨大金融財閥にのし上がったのだ。
物語では、IBBCという闇の金融組織が、アメリカ軍産複合体の非公式の部門ともたれ合いがあった事実を暗然と示す場面設定ではないだろうか、と私は思うのだが。
あるいはまた、おそらく現実的にも、軍部やCIA(各研究部門)とBCCIの闇の金融経路にグッゲンハイムが糸を引くトンネル会社がかかわったかもしれない。いや、グッゲンハイムは単なるメタファーにすぎないかもしれない。
BCCIのような後ろ暗い銀行が活躍できたのは、それを利用する軍産複合体の恩寵を受けたり、有力な金融財閥や政府の非公式の「後押し」を得てのことだった、というような世界経済の権力構造の闇を描こうとしたのではなかろうか。もっとも、そのことを読み取り理解できるのは、世界経済・世界金融の闇に目を向けている専門研究者だけなのだが…。
以上の文脈に関連して、パキスタンの核兵器開発にBCCIが深く絡んでいたという事実は、じつはこの原爆開発がペンタゴン――と核関連企業――の暗黙の了解または傍観を受けての計画だったという裏事情が垣間見えるような気がする。
実際にBCCIは、アメリカの金融中枢に足がかりを得ようとして、ペンタゴンやCIA(政府軍事部門)との密接な結びつきが公然の事実とされている銀行(金融企業)の買収に乗り出したことがある。そして、この買収劇には、大統領府の元閣僚やペンタゴン指導部歴任者などの高官・有力者が、臆面もなく、仲介者やBCCIの利益代理人として登場したのだ。
1970年代後半から80年代にかけて、BCCIはアメリカの有力金融機関を支配しようと画策した。
だが、建前上、財務状況や経営の組織実態が闇のなかにあったBCCIのような金融組織が、アメリカ金融市場の有力企業と融合したり、それらを支配しようとする試みは、司法当局や金融当局によって厳格に阻止される……はずである。
ところが、この策謀が、ワシントンのペンタゴン=CIA人脈と絡み合う形で、公然と繰り広げられたのだった。
BCCIが乗っ取りを狙った複数の金融機関のうち最有力のものは、ワシントンDCに本拠を置く《 ファーストアメリカン銀行 》だった。この銀行の前身は、投資金融会社FCBで、連邦政府や金融当局との癒着を背景に有力銀行に成り上がった。
《 ファーストアメリカン 》は、元国防長官のクラーク・クリフォードならびに――彼の法律顧問で――ローファームの同僚、ロバート・アルトマンを鳴り物入りで経営陣のトップに据えて、設立・運営されてきた金融機関だった。ペンタゴン人脈、軍産複合体系列という背景=看板を強調していた。
「その筋」では、FCB=ファーストアメリカンがペンタゴンの非公然組織と結びつきながら、CIAの「裏金庫番」として機能していたことは、「公然の秘密」だった。言ってみれば、アメリカの軍情報系統にとっては、枢要な意味を持つ銀行だった。
あろうことか、BCCIは、そんな銀行に触手を伸ばしたのだ。