マイケル・コリンズ 目次
アイアランド独立闘争
見どころ
あらすじ
独立闘争の前史
航海諸法と大飢饉
ダブリン議会
フランス革命の時代
19世紀の抵抗と反乱
イングランドの食糧供給地への転換
土地戦争
自治権闘争
◆映画の物語◆
イースター・ライジング
アイアランド評議会
ダブリン警察内のシンパ
独立闘争の熾烈化
局面の転換
デヴァレラの脱走
捨て身の総攻撃
戦闘から交渉へ
タフな交渉
独立派の分裂抗争
マイケル・コリンズの死
マイケル・コリンズの実像
◆その後のレジーム◆
◆北アイアランド問題◆
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炎のランナー
アイアランド紛争に関する物語
黒の狙撃者
死にゆく者への祈り

局面の転換

  ブリテン政府はIRAとシン・フェイン党、独立派を徹底的に抑圧するための新たな手立てを講じた。本国の秘密情報局SISのソウムズと彼が指揮する十数名の局員たちが、陸軍特殊部隊を率いて乗り込んできたのだ。ダブリン市の要衝には、重機関銃で武装した軍の部隊が配置された。
  SISは、独立派への攻撃を強化するため、ダブリン警察の文書庫に蓄積された独立派メンバーの資料をより詳細に精査しようとした。
  ネッド・ブロイは、指導部メンバーの資料をカバンに隠して持ち出して、ホテルの部屋に持ち込み、焼き捨てようとした。ところが、SISは警察内部のスパイを探り出そうとして、アイアランド人警官にさえ尾行者を配置していた。そのため、ネッドは行動を怪しまれて尾行され、ホテルの部屋で資料を焼却中に捕縛され、SISの取調室に連行された。
  ネッドは、そこでひどい拷問を受けて虐殺されてしまった。そして、あれの遺体はSISの車に積み込まれ、繁華街の街路で投げ落とされた。市民への「見せしめ」だった。

  軍が始めたのは、独立派への弾圧だけではなかった。
  ブリテン当局は、マイケルが指揮する暗殺作戦への報復として、一般民衆への無差別な攻撃を始めた。手始めは、フットボール競技場での虐殺だった。

  その日、競技場ではアイアランドの有力な2つのラグビーティームが試合をおこなっていた。
  この当時のラグビーフットボールのゲイムルールは、まだ母体となったサッカーフットボールの面影を濃くとどめていた。H型のゴールの横棒の下の部分にはネットが張られていて、ゴールキーパーがいた。そして、ハンドパスによる展開やスクラムは見られず、もっぱらキック・パントによるパスが中心だった。映像では、そんなゲイム光景が描かれている。
  そして、観客席スタンドはラグビーファンの観衆でいっぱいだった。
  そこに、最近開発されたばかりの装甲車――薄い鋼板で覆われた車体に2つの筒状の機銃砲塔を乗せた車両――がやって来て、競技場のゲイトを突き破ってフィールドに突入した。突然の出来事に試合はそこで中断された。
  数瞬ののち、ゲイムは再開された。ボールを持つ選手が装甲車越しにキックパンとして前進してゴールに向かった。そして得点。

  そのとき、円筒状の砲塔が回転した。突然、激しい銃撃が始まり、フィールド内を掃射していった。コート内の選手たちは、身体中に銃弾を浴びて、次々に倒れていった。さらに、別の装甲車の機銃砲塔は回転して、観客スタンドに照準を合わせた。それを見た観客=民衆たちは逃げまどい、大変な混乱に陥った。彼らに対して銃撃が加えられた。
  競技場は、凄惨な大量殺戮の修羅場と化した。
  市内の病院やホールには被害者の治療や遺体の安置場所になった。そこは、たちまち死傷者でいっぱいになった。


  マイケルは、そのうちの1つとなったホールを訪れた。そこにはネッドの遺体があった。マイケルはネッドの身元を確認し、哀悼を捧げた。そのとき、マイケルは声を振り絞るように呻いた。
「こんなひどい殺し合いに私たちを引きこんだブリテン当局が憎くてならない」
  そこには、「こんなはずではなかった」という戦術選択への悔いが込められていた。だが、ここで止まるわけにはいかなかった。

  マイケルは、SISメンバーに関する情報収集の体制を組織した。メンバーは誰なのか、そして宿泊場所、起床や食事の時間、出勤経路などを徹底的に調べさせた。ついに、ソウムズの住居でメイドをしているダブリンの若い女性を内通者に引き込んだ。
  ソウムズは、たぶん、貴族家系の出身者でオクスブリッジ出の情報エリートであろう。そんなことが、彼女の提供した情報から読み取れる。
  さて、メイドがソウムズの部屋から持ち出した紙屑入れから、マイケルたちは、派遣されてきたSISメンバーの名簿を手に入れた。これで、誰を調べるべきかが特定され、秘密情報局員たちの情報が調べ上げられた。
  誰をいつ、どこで襲撃するか。マイケルは周到に計画を立てて、暗殺部隊を動かした。こうして、ある者は警察庁舎への出勤途中で銃撃されて殺された。そして合同宿舎での食事中のグループが皆殺しにあった。また、緑の芝生が美しい運動場で体操中に暗殺隊に取り囲まれて、頭を撃ち抜かれた局員もいた。さらにホテルで若い女性と情事を楽しんでいるところを襲われて、銃弾を身体中に食らった若者もいた。
  最後に、ソウムズも朝の洗顔中を襲われて落命した。

  国家装置の中枢にいたエリート貴族が白昼堂々と暗殺されたのだ。このことは、ブリテン政府に手痛い打撃を与えた。情報部エリートのアイアランドへの派遣は命と引き換えの昇進抜擢となるという恐怖心をブリテン側に与えたのだろう。エリート貴族層のなかに、アイアランド紛争のために、有能なメンバーを危険な戦場に派遣して、生命の危険に会わせることをするほどの価値はない、という意識が広く芽生えたようだ。
  何世紀にもわたってイングランドの暴虐を受け続けてきたアイアランドでは、王室や有力貴族の権威や威光は憎悪の対象にこそなっても、もはや畏怖の対象ではなくなっているのだ。
  ブリテン政府が今、どれほど悲惨な闘争に引き込まれているのかが、ようやく政府のエリート層にも痛感され始めたのだ。ブリテン政府の対応が、いくぶん「及び腰」になってきた。

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