パーティ会場を出ると、村人たちに、すっかり古びた郵便局舎に連れて行かれた。彼らは、ポストマンは任務のために当然そこに行き、宿泊するはずだと思ったのだ。
ところが、局舎に行くと、玄関には何十通もの手紙が積み重ねられていた。村人たちが、願いを込めて書き上げたのだ。こうして、希望はまたたくまに膨らみ、ポストマンの捏ね上げた話は独り歩きし始めていた。
ポストマンは手紙を鞄に押し込むと、用意されたベッドにもぐり込んだ。そこで、ろうそくの明かりで、手紙のあて先を眺めてみた。
とかくするうちに、先ほど「とんでもない頼み」を申し込んだ女性、アビーがやってきて、裸になってベッドにもぐり込んできた。「据え膳を食わぬ手はない」と男は腹を括った。
翌朝、ポストマンは村人から当分の食糧と1頭の馬を提供され、鞄いっぱいの手紙を持って、集落を出て行った。そのとき、騎乗したシェリフが見送り役を買って出た。そして、「お前は、人びとに危険な希望を与えてしまった。その希望は、災厄を招くかもしれない」と苦情を述べた。が、結局彼も、娘に宛てた手紙をポストマンに託すことになった。
しばらくして、ホルニスト軍団がパインヴュウにやって来た。
ところが、住民たちの表情や態度が今までとは違っていた。これまでは、軍団の前に脅えて下を向いて、ひたすら威嚇と収奪に耐えていた。ところが今、取り立てて反抗するわけではないが、脅えの度合いは低まり、いくらか尊厳を回復していた。顔を上げ、軍団に普通に視線を送るようになっていた。
勘の鋭いベトゥリヘムは、即座にこの集落で人びとの意識を変えるような出来事があったことを察知した。ホルニスト集団が村人から聞き出したのは、合州国政府のポストマンが訪れて、連邦の郵便体制を再建しているということだった。
ホルニスト以外の権威や地方間のコミュニケイション(通信連絡網)が出現すること、あるいはその出現を住民たちが期待することは、軍団にとってゆゆしき事態だった。この世に存在する権威はホルニストだけでなければならない、それが軍団の住民支配=抑圧の原則だったのだ。
ホルニストたちは、合州国政権の存在を否定し軍団の権威と恐怖をあたらめて住民の意識に植えつけるために、普段以上に過酷な収奪=取立てをおこなった。そして、郵便局オフィスを焼き払わせた。しかも、目立つ美貌のアビーを首領の側妾として略取していった。それに抵抗した彼女の夫を虐殺して。