ポストマン 目次
原題について
あらすじと見どころ
破局後の世界
ヒーローなき物語
放浪者
ホルニスト軍団
ポストマン
パインヴュウ
幻想と希望と
ヘニングズの悲劇
蒔いたタネは育つ
ホルニストとの闘争
ブリッジシティ
決   戦
市民兵の結集
力関係の転換
ポストマンの記念碑
国家または国民の再建…
軍事的支配を最優先する立場
ミュニケイションを最優先する立場
ヨーロッパの国家形成史
「再建されたUSA」
「国」とか「国民」を考える
「一国史」「各国史」の欺瞞性
日本の国家形成
利害の取引き関係としての国家

力関係の転換

  こうして、草原の一方の側にはポストマンと一帯の集落から集結した住民志願兵の一団が整列した。他方の側には、ベトゥリヘムに従うホルニストの騎馬軍団が整列した。
  人質のフォードは、馬に乗せられたまま解き放たれ、ポストマンの陣営に駆け寄り合流した。ホルニストの将校がフォードを後姿を狙い撃ちしようとしたが、軍団の副官に制止された。
  その副官は、事態がここまで立ち至ったことを冷静に受け止めていた。
  その意味では、軍団のなかでベトゥリヘムの権威による呪縛がしだいに弛緩していく気配が読み取れる。

  兵士の多くが、これまで、ホルニストの暴力による威嚇に唯々諾々としているかに見えた各地の集落から、これほど多くの志願兵が結集するとは思っていなかった。そのため、はじめて対抗勢力と対峙することに畏怖と圧迫を感じ始めていたのだ。
  ベトゥリヘムのいわば個人独裁・人格的専制と厳しい階級制、威嚇によって統一と規律が保たれていたホルニスト軍団の兵士たちには、個人として内発的・自発的な闘争目的・闘争意欲が湧き出す条件はあまりなさそうだ。
  あの、郵便組織にスパイとして潜入するうちに、郵便配達員メンバーの目的意識と意欲の高さ、組織としての内発的な規律、創造性に心服・感化された若者は、ホルニストの軍団から離脱してポストマンの陣営に加わった。


  映像はここで、ホルニスト軍団の側における戦闘意欲=士気の頓挫・蹉跌を描き出している。
  だが、ポストマンは集団どうしの殺戮戦を回避するために、ベトゥリヘムの権威に単独で挑戦しようとした。彼は、上着の袖を破り、上腕に残る焼印の痕をホルニスト軍団の全員に見せつけた。つまり、軍団の掟にしたがってベトゥリヘムに挑戦し、首領の地位を奪い取るのだ、と。
  というわけで、ポストマンとベトゥリヘムとの1対1の戦いが始まった。体格と年齢の差によるものか、それとも闘争心の差か、いや物語の流れ上からか、ポストマンが勝った。

  ポストマンは勝者の権利、首領の資格において、闘争はここで終止符を打つことを宣誓した。そして、ホルニストの解散を決定した。
  また、拳銃を握り締めて、ベトゥリヘムを射殺しようとするフォードを制止し、宥めた。
  だが、フォードが捨てた拳銃をベトゥリヘムが奪い、ポストマンに狙いを定めようとした。その瞬間、あの副官のライフルが火を噴き、銃弾が首領の地位をたった今失った男を貫いた。副官は、その直後、ライフルを頭上に掲げて降伏と戦意の放棄の意思表示をした。

ポストマンの記念碑

  それから30年後、ある湖の畔。再建された合州国における平和の回復、そして統治秩序のそれなりの整備を祝う集会。国民再生の事業を開始したポストマンを讃え記憶するための記念碑の序幕式典がおこなわれていた。
  集会の指導者は、アビーが生んだポストマンの娘。
  彼女は、ポストマンの銅像の序幕をおこなった。
  現れたのは、ポストマンが馬に乗って手を伸ばし、少年が差し出す手紙をいままさに受け取ろうとする姿。
  偶然のきっかけではあったが、人から人へのメッセイジ、意思の伝達、コミュニケイションを組織する努力こそが、国家の再建に向けた苦闘の始まりだったというわけだ。映像物語はかなり単純だが、国家権力の存立基盤に関する示唆を含んでいて、なかなかに面白い。

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