さて、NSAは事故の直後に、DC(首都)警察の捜査官に扮した男がクレイトンを訪ねて、ザーヴィッツが死ぬ直前に何かを手渡さなかったを質問した。心当たりのないクレイトンは、何も受け取らなかったと答えた。
そこで、NSAはクレイトンの自宅を家捜しして、ついでに盗聴・監視装置をいたるところに仕かけることにした。住居に侵入した泥棒がしたかのように、家捜しして、衣服や靴などを盗み、室内にひどい落書きを残し、ペットの犬に緑のペイントスプレイをぶちまけた。
そして、残した衣服や靴には、GPSで居場所をトレイスする発信装置を仕かけた。
さらに、クレイトンが会員となっているボート(カヌー)クラブで、彼が湖でカヌーングをしている最中に、腕時計や万年筆などにこれまた盗聴装置や発信装置を取り付けた。
これによって、クレイトンのあらゆる行動が把握され、会話や発言が盗聴されることになった。
居場所がわかるから、路上の会話は空気の振動から特定の音声をフィルタリングする装置で、屋内の会話ならば外からでも窓ガラスの振動から音声を解析復元する装置で、(音波を撹乱するような樹木や網などがなければ)クレイトンの会話の内容はほとんど聞き取られていた。
レイノルズのティームは、クレイトンを徹底的に監視しながら、彼のスキャンダルを捏造して中傷記事をメディアに流すことで信用を失墜させることにした。法律家であるクレイトンを社会や家庭から孤立させたうえで、攻撃を仕かけてMCDを奪い取ろうという作戦のようだ。仮に彼がMCDの映像を利用してNSAを告発してもメディアや市民社会が彼が提供する情報に信頼を置かないようにするためでもある。
ある夜、クレイトンはレイチェルと食事をしながら打ち合わせをした。この行動は、NSAに筒抜けだった。
翌日の朝刊にクレイトンがレイチェルといっしょにレストランで食事をしている写真とともに記事が掲載された。クレイトンの不倫(浮気)を非難する記事だ。この記事のためにカーラは不機嫌になった。そしてこの手の記事が連日報道された。カーラは夫が信じられなくなって、家から追い出してしまった。
仕方なくクレイトンはホテルに泊まることにしたが、チェックイン手続きをしようとしたところ、クレディットカードはすべて使用不能になっていた。NSAがクレイトンが利用しているカード会社=金融機関のデイタベイスに侵入して情報を改竄して、カードをすべて利用不能にしてしまったのだ。
しかも、仕事の資料が入っている鞄まで盗まれてしまった。クレイトンは安宿にしけこむしかなかった。