ブリルは、クレイトンとはじめて会ったとき、彼の生命を救った。レイチェルに教えられた方法でブリルとコンタクトを取っている最中に、NSAエイジェントがブリルを装ってクレイトンに近づいた。その男はタクシードライヴァーに扮していた。男はクレイトンをタクシーに拉致して拘束ないし殺害しようとした。そのとき、本物のブリルが運転するトラックをタクシーにぶつけてクレイトンを救出したのだ。
そして、クレイトンを狙っている相手はNSAだと教えた。発信装置や盗聴装置のありかも。
クレイトンはふたたびブリルに助けを求めることにした。
レイチェルのコンタクト手法を真似た。そして、レイチェルに会うことにした。で、レイチェルの住居に忍び込んだ。だが、彼女はすでに殺されていた。そして、部屋のなかには、殺害がクレイトンの仕業であることを示す証拠品が散乱していた。盗まれた靴、シャーツ、トラウザー、ジャケット、カフリンク…。
クレイトンを追い詰める罠がこんなところまで仕かけられていた。
さて、ブリル=ライルは指定した場所にやって来た。
ライルは、クレイトンに対して、NSAとの争いにレイチェルとライルを巻き込んだことを責めた。
一応、クレイトンの呼び出しに応じたブリル=ライルだったが、NSAに追われているクレイトンを助けることをためらっていた。とはいえ、見捨てるわけにはいかず、仕方なくクレイトンを車に乗せた。ブリルは潜伏場所にクレイトンを連れていくことにした。
理由は、半分はNSAに対する反感・敵愾心で、残りの半分は、自分の存在を知る人間がNSAの手に落ちた場合のリスクを考えてのことだったのではないか。
ブリル=ライルは、隠れ家にクレイトンを連れて行くつもりだった。だが、車中でクレイトンから、レイチェルの死を告げられた。大きな衝撃を受けた。
ところが、途中で寄ったコンヴィニエンスストアで、クレイトンが公衆電話から妻の勤務先に連絡したことから、足取りをNSAに捕捉される羽目に陥ってしまった。
NSAはクレイトンが立ち寄りそうな場所に監視装置を仕かけ、連絡を入れたりしそうな相手先の通信回線へのワイアリング――盗聴・監視・発信先割り出し――の手はずを取っていた。だから、即座に、クレイトンが電話をかけた公衆電話の番号と設置場所が判明し、その近隣の道路や輸送施設のデジタル配置図がモニターに映し出され、その一帯にスパイ衛星の監視カメラの焦点が設定された。
ブリル=ライルの隠れ家は、ボルティモア市の古びた工場地帯にあった。閉鎖された工場ビルディング(廃屋)だった。ライルは、クレイトンを引き連れて3階の作業室に入った。同居者は猫1匹。
そのフロアには、多数の最先端のIT装置が所狭しと置かれていた。
ライルはさっそく、クレイトンから受け取ったMCDをドライヴに挿入して、映像を読み出した。水辺での野鳥の観察映像のあとから映し出されたのは、あの貯水池の畔での「ハマーズリー議員殺害」の場面だった。
ライルは、殺害を指揮している男の顔面を拡大解像して、人物特定のためにNSA職員リストのデイタベイスに照合した。答えは、NSA副局長の特別顧問のトーマス・レイノルズ。彼の経歴や業績、専門分野などの情報がディスプレイに表示された。
「政治屋だな」(権力志向がきわめて強い上級キャリア官僚という意味)とライルは言った。