レストランのなかでは、クレイトンが目論んだとおり、険悪な会話が始まった。
「おい、お前、何の用だ」とピンテーロ。
「君に渡した映像の件だ。あの映像を渡してくれ」
もちろん、この「映像」とは、ピンテーロが労働組合幹部とパーティをしている場面の映像だ。クレイトンは、労働協約の締結に応じるのと引き換えに証拠映像を引き渡したのだ。つまり、代価と引き換えに売り渡したわけだ。クレイトンとピンテーロとのあいだの会話で「映像」といえば、それしかない。
「映像だと。あれは、お前が取引で俺に売り渡したんだろうが。いまさら、お前に返す理由はない。消えろ」
「いや、この人に引き渡すんだ」 と水掛け論がはじまった。
そこにレイノルズが割り込んだ。彼にとっては、「映像」とは貯水池での殺人場面の映像だ。それを、クレイトンがマフィアっぽい奴らに売り渡したと思い込んだ。
「いいか、あの映像は、この私に引き渡すのだ」
「何だと。横から割り込みやがって、あれは俺のものだ」ピンテーロは反論。
「私は国家機関の者だ。渡さないと、とんでもないことになるぞ」と脅すレイノルズ。
一触即発の状況。レイノルズと護衛たちは銃を引き抜いて、映像の引渡しを迫った。他方、マフィア陣営も銃を構えた。
この一部始終は、レイノルズの服に取り付けられた超小型カメラ・マイク装置がとらえてワゴン車に送信していた。NSAエイジェント(ガンマン)は銃を手にしてレストランに駆け込んでいった。
ワゴン車内の解析要員2人は、恐ろしい映像を見てすっかり動転した。ライルはこの状況を利用した。
「お前ら、今すぐに応援に行け。レイノルズたちが危ない!」
いつもはコンピュータの画面係を見ているアナリストたちは、ライルの唆しに乗せられて、車を出て行った。
さて、レストランのなかでは。
NSAエイジェントが銃を構えて入ってきた。多くの料理人たちは、脅えて逃げ腰になった。だが、なかには昔は「ゴリラ(暴力要員)」だった爺さんがいたらしい。ショットガンを持って、エイジェント後ろから追いかけた。
レイノルズたちとピンテーロ一味は銃の引き金に指を当てて睨み合っていた。そこに、NSAの応援が加わろうとしていた。その男を、料理人の爺さんが撃った。その銃撃は、至近距離での激しい撃ち合い(クロスファイア)を誘発した。
レイノルズも何か所も撃たれて倒れた。双方とも互いに倒れる寸前まで銃をぶっ放した。
クレイトンは、銃撃が始まる寸前にテイブルの下に逃げ込んだ。
武装した全員が立射による撃ち合いだったことが幸いして、クレイトンは銃弾を浴びずに済んだ。