エネミー・オブ・アメリカ 目次
NSAの暴走
原題について
見どころ
あらすじ
議会委員長の死
野鳥観察カメラの映像
監視システムとしてのIT
巻き込まれた弁護士
クレイトン担当の事件
家宅侵入と監視
信用失墜作戦
人狩り作戦
映像デイタの行方
ブ リ ル
ブリルの隠れ家
必死の逃走
攻守逆転
落とし穴
起死回生の大バクチ
  NSA対マフィア
結   末
つけたし 余計な話題
  「隣の腕白兄ちゃん」
  〈強硬な愛国者=卑劣漢〉
  監視テクノロジーの凄さ!
  IT通信暗号の認可とNSA
  国家装置とマフィアの等置
  なぜ国家装置は膨張したがるのか
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信州の旅と街あるき

結   末

  そこに大勢の増援を受けたFBI捜査官たちが駆けつけた。もちろん、地元の警察も武装して突入した。消防、救急車も駆けつけた。
  クレイトンは、FBIによる銃撃戦の鎮圧のあと、テイブルの下から出てきた。そして、武装してないことが確認されて保護された。
  一方、ライルは、レストランの内部での大騒ぎを尻目に、警官の扮装のまま猫を大事そうに抱えてワゴン車から出て、通りを歩き去っていった。さすが、もと秘密工作員だけに、落ち着いたものだ。事件現場に駆けつけた警官たちがあちこちにいるので、ライルが警官の姿で歩き回っても、誰も不審に思わない。ライルは悠々と角を曲がって視界から消えた。

  さて、NSAの幹部がマフィアの経営するレストランに武装して乗り込み、派手な銃撃戦を展開したこの事件は、ワシントンの政治と社会に大きなインパクトを与えた。最大の衝撃は、市民監視法案が議会で否決されたことだった。
  推進派のアルバート議員が、自分に対する監視と盗聴事件で大騒ぎしたうえに、法案準備の事務方であるはずのNSAのキャリア官僚レイノルズがマフィアと殺し合いをしたのだ。法案を葬り去る大スキャンダルとなったのだ。レイノルズがマフィアへの殴り込みをかけた理由は、彼がマフィアがらみの汚職腐敗に絡んでいるらしい、というのが捜査当局の見方だった。

  その判断の根拠は、おそらくクレイトンの証言だろう。クレイトンは、ハマ-ズリー議員殺害へのレイノルズの関与については何も言わなかったようだ。言えば、NSAや軍関係の闇を暴くことになるはずで、そうなれば命がいくつあってもたりないほど危険な状況に追い込まれるだろう。
  その代わり、マフィアのピンテーロとレイノルズが何やら「やばい映像――腐敗と癒着を立証するらしい映像――」のことで苛烈に揉めていたようだ、とかなんとか伝聞証拠を撒き散らしたのだろう。その紛争にかかわって、NSAの情報解析部門(多数のアナリスト)と暴力要員たちを動員して陰謀を企んだらしい、と。
  レイノルズが上司や組織の了解を得ずに、何やら密かに動き回っていたことは、局内でただちに察知されようだ。NSAとしても、連邦議員殺害というような深刻な事件に繋がる状況よりも、マフィアとつるんだ1幹部とその部下たちの腐敗・背任という事件の方が、幕引きが楽だ。おそらく、クレイトンの目撃談や伝聞情報に飛びついたに違いない。

  だが、法案の準備と推進キャンペインで中核的な役割を果たしていたレイノルズのタスクティームの腐敗と背信は、法案への不審や疑念を増幅する格好の材料だった。しかも、推進派はアルバート議員とNSAの揉め事で分裂。
  かくして、法案は葬り去られた。「アメリカ民主主義に祝福あれ!」だ。
  けれども、国家による市民社会の監視と統制を欲する勢力は、この法案の挫折くらいでは少しもめげていないようだ。
  下院での法案否決の直後、議事堂から出ようとするアルバート議員がマスメディアのインタヴュウを受ける。
「今回の法案は否決されましたね」
「いや、しかし、テロの脅威に対抗する監視法制度は必要だと私は判断する。だから、いつか必ずこの種の法律が成立するようになるはずだ」と強気を崩さない。

  二言目には「自由」と「アメリカ的な価値観」を膾炙する保守派政治家は、「自由」とは「一般市民の自由」ではなく、国家装置(軍や安全保障機関)と特権階級の自由を最優先するものらしい。おなじ「自由」でも、まるきりヴェクトルが異なる。
  これでは、まあパラノイアのライルの見方も、あながち根拠のないものではない。アメリカの政治と権力は陰謀で満ちている! ということか?

  さて、そのライルだが、事件の大騒ぎが収まりかけた頃、クレイトンに「挨拶」をよこした。
  例によって、またもや盗撮装置。クレイトンが観ているテレヴィ画面が突然コンフューズ。そして、テレヴィを観ているクレイトンが画面に映し出された。こういう状況には慣れたクレイトン、目の前の天井を見上げた。火災警報装置だ。そこにカメラと送信機が仕かけられている。

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