エネミー・オブ・アメリカ　その２

エネミー・オブ・アメリカ　目次

ＮＳAの暴走

原題について

見どころ

あらすじ

議会委員長の死

野鳥観察カメラの映像

監視システムとしてのＩＴ

巻き込まれた弁護士

クレイトン担当の事件

家宅侵入と監視

信用失墜作戦

人狩り作戦

映像デイタの行方

ブ　リ　ル

ブリルの隠れ家

必死の逃走

攻守逆転

落とし穴

起死回生の大バクチ

  ＮＳＡ対マフィア

結　　　末

つけたし　余計な話題

  「隣の腕白兄ちゃん」

  〈強硬な愛国者＝卑劣漢〉

  監視テクノロジーの凄さ！

  ＩＴ通信暗号の認可とＮＳＡ

  国家装置とマフィアの等置

  なぜ国家装置は膨張したがるのか

あらすじ

  ＮＳＡの幹部レイノルズは部下を使って、議会代表院（下院）の委員長を暗殺した。理由は、テロリズムの脅威に対抗して市民や社会を系統的に監視する法案に委員長が反対していたからだ。古典的な保守派である委員長は、国家の監視権限の強化を好まなかったのだ。
  ところが、その殺害場面が野鳥観察用のカメラに撮影されていた。ＮＳＡの秘密工作員たちは、カメラの映像データを回収したバードウォッチャーの住宅を襲撃し、画像を奪おうとした。しかし、市街に逃げ出したバードウォッチャーは、画像データを弁護士のクレイトンの手荷物のなかに隠したのちに、殺された。

  ＮＣＡは今度はクレイトンに狙いを定め、彼を追いつめニセ情報で社会的に抹殺し、さらに殺害して画像を奪おうと画策した。わけのわかないまま、クレイトンは正体不明の襲撃者たちから逃げ回るはめに陥った。
  あわやの窮地を脱したクレイトンは、身を隠したままブリルに助けを求めた。ＮＳＡはブリルにも迫ってきた。ブリルは仕方なく、クレイトンとともにＮＳＡへの反撃を開始する。だが、作戦の手違いからブリルはクレイトンとともに捕らえられてしまった。銃を突きつけて映像を渡せと迫るレイノルズ。追い詰められたクレイトンは、以前の生活と家族を取り戻すために起死回生のトラップを仕かけた。

議会委員長の死

  場所はワシントンＤＣ近郊のメアリーランド州のある公園。湖のような大きな貯水池がある。そして周囲を取り囲む森林。
  ある早朝、合衆国立法院（下院）議員、フィル・ハマーズリーは、ＮＳＡの幹部のトーマス・レイノルズの呼び出しを受けて、水辺の公園に車で乗りつけた。あるいは、早朝の犬の散歩をその公園でするつもりだったのかもしれない。
  レイノルズは、ハマーズリーに現在、課員の情報委員会で懸案になっている法案に同意するように求めた。その法案は、国内で高まっているテロリストの脅威に対抗するため、政府機関に市民の活動や情報通信を包括的に監視（盗聴や盗撮、ウェブへの無制限の侵入など）する大幅な権限を与えるはずのものだった。

  会話の内容からすると、ハマーズリーは共和党の右派で、これまでレイノルズ――ＮＳＡは陸軍情報部の組織から発足してきた――とともにペンタゴンに絡む利益共同体に属していたようだ。そして、レイノルズは、ハマーズリーが軍の利益にかなった政治活動をおこなうのとと引き換えに、彼にかなりの便宜・利益・利権を供与してきたらしい。
  ところが、ハマーズリーは「古典的な保守主義者」だった。彼にとっては、アメリカの国家権力や軍事力は「市民的自由の保護」のために用いるべき手段であって、市民的自由を制限するような法制度は目的と手段との転倒でしかなく、断固阻止すべき法案だった。
  しかも、ハマーズリーは法案の予備審議をしている情報委員会の委員長だった。彼の反対がある限り、法案は葬り去られてしまうのは明らかだった。
  そこで、レイノルズは強硬手段に訴えたのだ。

  レイノルズはハマーズリーを湖のほとりの呼び出し、同行してきた部下（屈強な兵士）に命じて、車に乗り込もうとするハマーズリーを押さえつけて、心筋を弛緩させる薬剤を注射させて殺した。心臓麻痺の事故による死亡を装うために、ハマーズリーを運転席に戻して、その周囲に心臓発作を抑える薬をばら撒いた。そして、議員が乗ったベンツのブレイクをはずして、後ろ向きに水の中に落として沈めた。
  これで、委員会での法案通過の障害はなくなったかに見えた。

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