この映画の主人公の1人は、合州国連邦財務省( Department of Treasury )の特別警護部(シークレットサーヴィス)のエリートだ。この組織は現在は、国土安全保障省(
Department of Homeland Security )のもとに移管されている。この映像物語が繰り広げられる20世紀末の当時は、この警護部門は、まだ財務省の1部門だった。
だが、なんでだろう?
映画の物語に入る前に、この素朴な疑問について考えてみよう。マスメディアや政治家が、人民すなわち住民や市民を「国民」と呼んでも何の疑問も抱かない「島国人=日本人」には、なかなか難しい問題なのだ。
警護という特殊な警察活動が、財務省組織の権限=機能の1部門だったという事実は、アメリカ合州国の成り立ちの独特の歴史を物語っている。
ほかの記事でも述べたように、1770年代、ブリテンに対して挑んだ独立闘争では、北アメリカ東部沿岸の諸州は、固有の主権を保有する独立の政治単位として闘っていた。事実上、単一の国民国家としての北アメリカ連邦が出現するのは、それからまだ100年以上も後のことだ。
とはいえ、これらの植民地政府は1775年、相互に連帯して「大陸評議会」を組織し、きわめて緩やかに結びついた軍事的・政治的同盟を取り結んでいた。いわば「国際的会議」だった。当時は、今日のEU(プラスNATO)よりも、ずっと緩やかな連合だった。
それでも、当時の世界経済におけるヘゲモニー国家、ブリテンを相手に戦うためには、諸州は結集・連合しなけらばならなかった。とりわけ、ブリテンの貿易統制や艦隊による通商破壊に対抗するためには、東部沿岸諸州の経済的再生産のためにも、軍事的資源の調達・動員のためにも、各州のあいだの経済的統合や緊密な通商関係は不可欠だった。
やがて、これらの州は関税同盟や租税同盟、財政=通貨同盟を組織化していく。1789年には連邦財務省が設立された。
共通の保護関税によって外部とのあいだに政治的=行政的障壁を張りめぐらせて、しだいにひとまとまりの市場、すなわち国民的市場を組織化していった。そして、各州に共通の課税と公債制度によって連邦財政を確立し、歳入と歳出を会計管理し、共通の通貨を発行し、これら課税・徴税や通貨の管理に関する法を執行(強制)し、各州および連邦規模での銀行と金融市場を規制するためのメカニズムを打ち立てていった。
このようにして、独立諸州はひとつの国民として組織化され、国民国家としての枠組みを形成していくことになったのだ。