不機嫌な赤いバラ 目次
品位と孤高、プライドとわがまま
原題と原作
見どころとテーマ
あらすじ
連邦財務省の・・・
「独立国家」としての州
合州国の国家的統合の進展
連邦での財務省の役割
振り回される警護班
ダグラス・チェズニク
現職大統領
テレサ・カーライル
人生の黄昏を迎えて
女心は墓場まで
ぶつかる個性
大統領の命令
テスの病状と悩み
ひとりの人間として
政権の思惑とテス
誘拐事件
テスの独擅場どくせんじょう
後 日 談
官僚はつらいよ
毅然と生きる老婦人の物語
マダム・スザーツカ
大誘拐

人生の黄昏を迎えて―テスの心理―

  テスは、大統領命令で夫の死後も警護サーヴィスが張りついているのを、複雑な気分で眺めていた。いまだに現政権(少なくとも大統領)に対しては、こんな老婆の影響力が残っている。その意味では、自尊心がくすぐられる。
  だが、政治的な配慮や駆け引きが原因で、有能な官吏がわざわざ派遣されてきて、政府の財政が無為に浪費されている。自らも政権の中枢で辣腕を揮った経験があるだけに、ただでさえ逼迫しがちな(貴重な)財政資金の使途としては疑問だ。

  他方、夫も失い、自分の人生の残り時間がわずかになった老人としては、もっと自由気ままに、警護の目を気にしないで暮らしてみたい。なにしろ、彼女は脳腫瘍にかかっていたのだ。
  公人( a public person )としての生活はもう終わりにして、残されたわずかな時間、自分自身のための生活を営んでみたい。けれども、普通の人びとのようなプライヴァシー(私的な生活)を営む術を知らなかった。
  気まぐれとわがままを通してはいるが、テスの日常は安全確保の面からさまざまな規制や掣肘を受けている。そして、気のおけない友だちがいない。権力の頂点にいた者、しかも有能で強い自己抑制をかけ続けた孤高の人、に特有の孤独かもしれない。
  そこで、規則に縛られた状態から自由を得るためにも、孤独な心を紛らわせるために、テスの行動は、攻撃的なまでに、この規則づくめの生活に風穴を開けようというものになる。シークレットサーヴィスが安心するような型にはまった行動基準をぶち破り、気紛れで行き当たりばったりの動きになる。
  それを、若いダグラスは理解できず、老人特有の精神的衰弱の結果として、「人格の分裂」に陥りかけている、と判断していた。

  だが、おそらくテスは、周囲の人間たちに、ごく当たり前の(とテスが想定する)老婦人として、1人の人間として接してほしかったのだろう。ところが、ダグラスの前任者は、なにしろ大統領の特別な厚慮を受けたVIPだということで、「腫れ物に触る」ように接していた。だから、テスは思う存分振り回して、ワシントンに追い返したらしい。
  ところが、ダグラス・チェズニクは、財務省警護部のエリートでめっぽう規則に厳格だったが、テスとは微妙な折り合いをつける才覚を持ち合わせていた。彼は要望を正面からテスにぶつけてきたが、その意味では、人間と人間、個性対個性のぶつかり合いが生まれたわけだ。
  ダグラスは、原則を一度は主張するが、あとは3年間の辛抱だという割り切りからか、テスの気紛れやわがままに鷹揚に応じていた。

  ところで、ダグラスとテスとの付き合いはもう6年近くになる。というのは、ダグラスは前大統領の警護も担当していたからだ。規則には厳格だが献身的に任務にあたるダグラスをテスの夫は高く評価し、その人間性や知性についての好意を妻のテスに伝えていた。そして、前大統領の警護は、その家族の協力、家族との付き合いとも絡み合うものだから、テスとダグラスとのあいだには信頼関係が醸成されていた。

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