不機嫌な赤いバラ 目次
品位と孤高、プライドとわがまま
原題と原作
見どころとテーマ
あらすじ
連邦財務省の・・・
「独立国家」としての州
合州国の国家的統合の進展
連邦での財務省の役割
振り回される警護班
ダグラス・チェズニク
現職大統領
テレサ・カーライル
人生の黄昏を迎えて
女心は墓場まで
ぶつかる個性
大統領の命令
テスの病状と悩み
ひとりの人間として
政権の思惑とテス
誘拐事件
テスの独擅場どくせんじょう
後 日 談
官僚はつらいよ
毅然と生きる老婦人の物語
マダム・スザーツカ
大誘拐

女心は墓場まで

  警護班もダグラス個人も、夫の死後、めっきり外出をいとうよう(「引きこもり」)になったテスを心配していた。肉体的、精神的な健康にはよくない。だから、テスが前々から予定されていた1泊のオペラ鑑賞の旅に出かけるのをそれなりに喜んだ。
 オペラなんていう高尚な世界には、館の雇い人も警護班の面々もほとんど縁がなかった。喜んでいるのは、流暢なフランス語を話すシェフ(風貌や好みはイタリア人に見える)だけだった。彼は、モーツァルトのオペラ曲をカセットから流してご機嫌である。
 しかし、出発でもめた。
 リムジンの後部座席に乗ったテスは、車で移動するときの規則に逆らって、運転手の真後ろに席を移した。警護規則上、テスは警護官ダグラスの真後ろに席を取ることになっていたのだ。彼は、運転手に命じてエンジンを切らせた。そして、テスに規則どおりにするよう指示した。テスは「陽射しがまぶしい」と言い訳したが、広いリムジンの座席だから、少し中ほどに寄って座ればいいと言い張った。で、結局、テスがはじめて論争に負けた。

 歌劇場は、満員だった。
 ところが、テスは疲れから、オペラを見ながらいつのまにか眠りに落ちてしまった。しかも、テスは最上の貴賓席(ロイヤルボックス)の主賓の座に(最前列に)ただ1人いた。一般の観客席から目立つこと夥しかった。案の定、貴賓席の有名人に強い興味を示す「おばさんたち」の注目を浴びることになってしまった。
 それに気づいたダグラスは、くたびれきった老婆然として眠るしどけないテスの顔を一般観客席から見えないように、テスの椅子を動かそうとした。が、椅子の脚が段差に引っかかってしまった。その衝撃に驚いたテスは目覚め、頭を激しく振った。その瞬間、テスの増毛鬘が落ちてしまった。
 女の直観で、テスはこの醜態が歌劇場全体の注目を浴びたことを知り、愕然とした。怒りは、余計なおせっかいを焼いたダグラスに向けられた。すぐに、予約したホテルの部屋に引きこもるように逃げ込んでしまった。憤懣が収まらないテスは、ダグラスや警護班メンバーに当り散らし、宿泊の予定を急遽キャンセルして帰ると言い出した。

 従者たちを引き連れた女王のように、彼女が警護官たちを引き連れてホテルのロビーを出ようとすると、そこには、前ファーストレイディを一目見ようと、歌劇場の観客たち(ほとんどはおばさん)が押し寄せていた。
 テスは、女性たちから絶大な人気を博したファーストレイディだったのだ。その人気はいまだに衰えを見せていない。歌劇場での醜態は、その評価にまったく影響を与えていなかった。
 自分の人気(影響力)が衰えていないことを知ったテスは、またたくまに落ち込んだ気分から回復した。そして、快活な顔つきで、「気が変わったの。このホテルに泊まることにします」と踝を返した。女王の行列は、行き先を元の部屋に変えることになった。

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