不機嫌な赤いバラ 目次
品位と孤高、プライドとわがまま
原題と原作
見どころとテーマ
あらすじ
連邦財務省の・・・
「独立国家」としての州
合州国の国家的統合の進展
連邦での財務省の役割
振り回される警護班
ダグラス・チェズニク
現職大統領
テレサ・カーライル
人生の黄昏を迎えて
女心は墓場まで
ぶつかる個性
大統領の命令
テスの病状と悩み
ひとりの人間として
政権の思惑とテス
誘拐事件
テスの独擅場どくせんじょう
後 日 談
官僚はつらいよ
毅然と生きる老婦人の物語
マダム・スザーツカ
大誘拐

官僚はつらいよ

  主人公のひとりダグラスはキャリア官僚だ。アメリカの行政組織制度では、キャリア官僚は大統領府の主が変わるたびに入れ替えや交代劇が起きる政治的人事、政治任用と対象となる。もちろん通常は、政治的人事権がおよぶのはダグラスよりもずっと上の地位にある上級官僚に限られるらしい。
  とはいえ、アメリカでは個人主義が強い。ということは、大統領や大統領府の高官の私的な利害や人脈、思惑――これを政治的判断と呼ぶ――によって割合好き勝に人事配置がおこなわれるということでもある。つまり、えこひいき組織なのだ。もちろん、官僚個人は行政訴訟に訴えて、大統領府の人事権濫用と闘うことはできるが、まず勝ち目はないようだ。それに、上級官僚なら面倒くさい行政訴訟に時間と費用をかけるよりも、転職の機会はいくらでもあるので、まず訴訟にはならないのかもしれない。

  だが、この物語では、財務省の主任クラスのダグラスが、良くも悪くもテスの意向を受けた大統領の人事権によって振り回される。つまり、中級クラスの完了人事まで大統領府は介入できるらしい。
  ダグラスは、大統領の政治的人事権の行使の影響を少なくとも2回受けた。最後の回では、ダグラスを優遇し出世コースに乗せろというテスの意向で、ダグラスは幸運を勝ち得たようだが。

  そこで、思いいたったのが日本の中央政庁における「首相官邸主導の人事権」の問題だ。この2年ほど、森友学園問題やら何やらで、首相の国会答弁によって有力官庁の行政文書の破棄・紛失ないし廃棄などの騒ぎが起き、それが上級官僚の出世競争での立ち回りの醜さがついに自殺者をもたらしたりしてきた。
  アメリカでの政治的任用、政治的人事権の問題と、日本の政治がらみ人事、政治がらみ文書管理との類似性と違いについて考えさせられる。

  日本では、内閣府(首相府)の人事権の発動をめぐって、権力関係が事態が隠微・陰湿な方向に作用しているらしい。
  上級官僚の国会答弁があまりにも「犬のしっぽ振り」めいていて、彼らは出世のためにはなりふり構わずパワハラをおこない、素人目には明白に虚偽と映る答弁を繰り返し、その答弁を押し通すために行政の現場で公文書の廃棄や隠蔽、改竄を部下の公務員たちに強制している実態が漏れ聞こえてくる。
  では、エリーコース東大出の上級官僚が、学歴とエリートとしてのプライドを押し殺し、見栄外聞を無視して恥知らずな行いを押し通した理由は何だろうか。省の事務次官や庁の長官となるのは官僚の同期のなかでもごくわずかだという。その競争に勝ち残りたかったのか。
  多くの人たちは、そういう地位に上り詰めた後の退職後の「天下りポスト」の確保で転職を繰り返し、数億円にのぼると見られる退職金と富裕な老後の生活が目的なのだろう、と見ている。

  そういうものは、エリートとしての見栄やプライドを投げ捨てても得たいものなのだろうか。いや、そういうものにしかすがりつけない自分の能力の狭さ、弱さに対する自覚、怖れが脳裏にあったのだろうと思う。
  あまりに霞が関の官僚世界に過剰適応してしまったために、ほかの道に転職しても自己の尊厳を守りたいという欲求がわかないほどに、ミューテイションしてしまった自分を守るために選んだ行動なのだろう。
  とはいえ、官庁界ではかなり傲慢不遜にふるまっていたらしいので、某氏は、それを精確に認識し自覚してはいないのだろうが、直感的に本能的に自己保存欲求がはたらいたのかもしれない。
  しかし、そこまで厚顔無恥の度が行ってしまったなら、某氏にはいまさら何を言っても事実を語ることはないだろうし、秘密を打ち明けることもないだろう。今後、首相や政権、その身内などに関する機密を握った彼は、それを切り札に黄金色の「天下り街道」を走るのかもしれない。某氏は非常に高額な「口止め料」を受け取るのかもしれない。
  ただ、その態度や行動が日本の中央官僚組織に対するぬぐいがたい不信感というか侮蔑に近い評価を固定化してしまうことになるかもしれない。

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