第6節 ドイツの政治的分裂と諸都市

この節の目次

ドイツの政治的分裂という事情

1 都市の統治装置の創出

ⅰ 参事会と参審人団

ⅱ 都市の財政構造

ⅲ 都市の財政と軍事力

2 都市の領域政策の展開と領主権力

ⅰ 都市の領域政策と領邦諸侯

ⅱ 教会組織との関係

ⅲ 裁判権力と通貨権力

ⅳ 帝国レジームと都市

3 都市同盟と地域同盟の試み

ⅰ ライン都市同盟

ⅱ シュヴァーベン同盟

ⅲ スイスの誓約同盟

4 領邦君侯の統治装置

5 領邦君侯による国家形成

宗教改革と農民戦争

5 領邦君侯による国家形成

  だが、13世紀から15世紀にかけては、領邦君侯権力は2つのヴェクトルのあいだで揺れていた。
  一方では、諸都市や聖職者、騎士が、都市や農村に対する実体的支配権を土台に特権を獲得して、弱小な領邦君侯から自立していった。そこでは、旧来の領邦権力の分解傾向が見られ、新貴族層は軍事力を基盤に領邦裁判権を切り取って、城砦を中心として個別の所領支配を組織するようになった。また、都市の自治の発展と独立はすでに見たとおりである。
  だが、他方では有力君侯たちによる領域国家形成への動きがあった。15世紀になると有力君侯たちは、すでに形ばかりになった帝国のさまざまな法的権利を奪い取り、領邦内部において、自分よりも下級の諸身分や都市の特権を切り崩すために(上級権力として)利用しようとした。だが、有力君侯の権力の拡張は、実際のところ、領邦内およびその周囲にある諸都市や領主層との激しい闘争をつうじて実現されていった。
  15世紀後半には、有力君侯と都市との権力闘争が展開された。1442年、ブランデンブルク選帝侯フリードリヒ2世はベルリンを服属させて首都とするとともに、領内のすべての都市をハンザ同盟――実態としてはリューベックの支配――から引き離そうとした。その後、15世紀末には、マルク・ブランデンブルク(辺境領)の諸都市はすっかりフリードリヒに服属することになった。バイエルンでも領邦君侯アルブレヒト4世が、レーゲンスブルクを帝国直属都市から領邦直属都市に変えた〔cf. Hartung〕
  とはいえ、この段階で変わったのは、通商と市域内自治をめぐる特権の授受をめぐる法的形式、つまり都市を保護する上級権威――したがって自治権の見返りとしての税や賦課金の上納先――が皇帝か領邦君侯かの違いだけであって、都市の政治的・経済的な地位はほとんど変化しなかった。都市は、すっかり形骸化してまったく頼りにならない帝国から、軍事的・政治的に強固な防衛能力をそなえた有力君侯に法的臣従の向け先を変えただけのことだった。だが、やがて領邦国家が強化され、単なる法的形式としての臣従という法的構造が統合にさいして物を言う時代がやってくるのだった。
  都市と同様に、貴族層もその多くが、領域支配を強める君侯権力によってその軍事的・政治的自立性を奪われていった。君侯の実力に裏打ちされた「領邦の平和」の前に、貴族層はしだいに自力救済権 Fehde を放棄し、領邦君侯に敵対する相手との同盟権を失い、君侯の上級支配権ないし裁判権・課税権に服すようになっていった。
  領邦君侯は聖職貴族にも裁判高権と租税高権を貫いた。そのさい、領邦政府の官僚たちは、ローマ法の原理を地方領主に対する君侯権力の優越性を正当化するために利用した。オーストリア、ザクセン、ブランデンブルクでは司教座都市は領邦権力に服属した〔cf. Hartung〕。15世紀末葉には、君侯の人格や家門、家政統治から相対的に分離・自立した「統一不可分な高権=主権 Souveränität 」の観念が領邦統治の法イデオロギーとして導入された。領邦君主権は、単一の最高権力として領邦全域におよぶ「国家権力 Staatsmacht 」として観念されることになった。これは、相続によって君侯権力が分散され、領邦国家の統合への道が途絶えるのを防ぐ論理でもあった。まさに「国家主権」概念の誕生であった。
  とはいえ、これらの事情は、ドイツ地方としては大きな領邦――ブランデンブルク、ザクセン、バイエルンなど――を支配した有力君侯の場合であって、西南ドイツの領邦君侯権力が弱い地方では事情が異なっていた。そこでは、貴族層や騎士層は領邦君侯の権利の正当性に異議を申し立て、帝国への租税の支払いによって皇帝を抱きこみ、自立的な帝国騎士身分として結集していった。司教座都市も帝国への直属を維持した〔cf. Hartung〕
  この段階で、領邦君主権の至高性を正当化するために、領邦支配権はもはや私的権利ではなく神から委ねられた義務に照応した権利であるという観念が形成された。しかしこの観念は、――多数の小規模な領邦に軍事的・政治的に分断され、国家形成のための君侯権力が弱いドイツにおいては――君主権への臣従を余儀なくされた聖俗の貴族や特権諸身分が身分評議会をつうじて君侯権力を制約するために利用された。
  「全体と臣民の福利のために神から託された権力」という言葉の上では美しい、この神授君主権の論理は、やがて16世紀に始まった宗教改革・紛争のなかでは、領邦君侯たちによって彼らが信じる――というよりも権力的利害から選択した――教義=宗派の至高性をかかげて不服従者を抑圧し、敵対者を攻撃するために利用され、争乱をさらに収拾のつかないものにしてしまった。

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世界経済における資本と国家、そして都市

第1篇
 ヨーロッパ諸国家体系の形成と世界都市

◆全体目次 章と節◆

⇒章と節の概要説明を見る

序章
 世界経済のなかの資本と国家という視点

第1章
 ヨーロッパ世界経済と諸国家体系の出現

補章-1
 ヨーロッパの農村、都市と生態系
 ――中世中期から晩期

補章-2
 ヨーロッパ史における戦争と軍事組織
 ――中世から近代

第2章
 商業資本=都市の成長と支配秩序

第1節
 地中海貿易圏でのヴェネツィアの興隆

第2節
 地中海世界貿易とイタリア都市国家群

第3節
 西ヨーロッパの都市形成と領主制

第4節
 バルト海貿易とハンザ都市同盟

第5節
 商業経営の洗練と商人の都市支配

第6節
 ドイツの政治的分裂と諸都市

第7節
 世界貿易、世界都市と政治秩序の変動

補章-3
 ヨーロッパの地政学的構造
 ――中世から近代初頭

補章-4
 ヨーロッパ諸国民国家の形成史への視座

第3章
 都市と国家のはざまで
 ――ネーデルラント諸都市と国家形成

第1節
 ブリュージュの勃興と戦乱

第2節
 アントウェルペンの繁栄と諸王権の対抗

第3節
 ネーデルラントの商業資本と国家
 ――経済的・政治的凝集とヘゲモニー

第4章
 イベリアの諸王朝と国家形成の挫折

第5章
 イングランド国民国家の形成

第6章
 フランスの王権と国家形成

第7章
 スウェーデンの奇妙な王権国家の形成

第8章
 中間総括と展望