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ドラマ《のだめカンタービレ》との出会いは、もう5年も前になります。
仕事や日常の雑用に追われて殺伐になっていた、その年の夏の私。
そんなとき、友人から借りたDVDヴァージョンのドラマ《のだめ》。物語の概略はその友人から聞いてはいましたが、「まあ物は試し」にと観始めました。
すると、はまってしまったのです。
はじめのうちは、一風変わった喜劇だということで、物語や演出、表現のズッコケ具合に戸惑いました。が、いつの間にやら軽い中毒症状に。
仕事で悩んでいるときに、ふと、そのあるシーンを思い出しているということもありました。
すると、心が妙に軽く浮き立ってきました。気持ちが楽になり、ストレスがずいぶん軽くなったのです。
これは《見るクスリ》だ、と気がついて、それから毎晩30分ぐらいずつ観るようになりました。よく効くクスリで、いつのまにかついにアディクション(中毒症状)に。
なかでも、仕事中でもときおり私の脳裏にわきあがってくるのは、
ドラマのインターメッツォ、インターリュード(幕間の演奏や劇)となっている、あのマングースの着ぐるみがステイジで踊るアニメイション。そして、これにに合わせて流れるベートーフェンの交響曲第7番イ長調(第1楽章)。
作品のなかのこの交響曲の演奏には強いユニークさを感じます。たぶん、このイメイジに合わせて演出していることからきているのでしょうが。
少しアップテンポの、若さに満ちた軽快さ、力強さを感じる演奏です。しかも、マングースの「おっちょこちょい」「滑稽さ」を表現するような…。
このシーンは「目から鱗」でした。
まるで小学校の学芸会劇の出し物のような光景に、この曲がこんなにぴったり合うなんて。
おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかな演奏。
「第7番」にこんなイメイジが密着するるとは、いや驚きました。
この曲は、なによりもベートーフェンの音楽の「構築性」「雄大性」を表現するものだと思い込んでいたのです。
たとえば、ドイツのケルンにある、あの大聖堂を見上げるような、あるいは大聖堂を遠景で見るような、優美でおごそかなという感じ。
けれども、いやいや、力強い若さとか壮麗さ、華麗さ(心浮き立つような)を描いているのかもしれないと、すっかり《のだめ》に洗脳されてしまいました。
以来、交響曲のあのフレイズが流れるたびに、私の心には、出来損ないのマングースの着ぐるみが出てきて踊りだす始末なのです。
あのベートーフェンにマングースの取り合わせなんて。
これは喜劇で、原作もシリアスな描写をともなうコメディ、いやギャグマンガではあるのですが。
このドラマはクラシック音楽の世界の「学園もの」「青春もの」なのです。私の青春時代とはまったく違う世界の。
ところが、私としては、自分の少年時代や学生時代のほろ苦い回想をも絡めて、ドラマの物語の展開と描き方に、じつに不可思議な、そして温かい感動を覚えるのです。