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さて、のだめは自分自身の欠点や限界には気づかないままに、それでも千秋がぶつかっている壁を乗り越える手助けをしようと努力します。今の自分の立場での「課題の共有」ともいえます。
そうするうちに、千秋に対する恋愛感情の内容もしだいに変化していくことになります。
はじめは、ただ憧れて「いっしょにいたい」という願望でした。が、千秋の目標とか悩みを理解し、その前進進化を自分なりに考えるようになっていきます。そして、千秋の求道者的な努力・姿勢からなにごとかを吸収していきます。
高い目標を持ち努力し上昇進化していく千秋と、人生をつうじて「ともに歩む」ための方途を探っていきます。
つまりは音楽家として自分の目標、努力の道を模索するようになっていきます。
というのも、のだめも、これまたシュトレーゼマンから指摘されたことがきっかけだったのです。シュトレーゼマンは「いまのまままでは、千秋といっしょにいることができなくなる」と忠告したのです。
こうして、それまで、逃げていた課題に正面から向き合うことになりました。
プロの芸術家をめざして自ら探求し高まっていく相手と「ともに歩み続ける」ためには、そんな相手と対等に渡り合える(理解し合い、高め合える)ような自分にしていかなければならないということです。
つまりは、プロの演奏家として進化成長し続けるための努力から逃げない姿勢が必要なのだ、と。
だが、その道に踏み出すためには、のだめの子供時代の「トラウマ」からの脱却が必要でした。
Sオケの演奏での千秋のすばらしい指揮、その後のAオケとの千秋のピアノコンチェルトの見事さ、さらにセミプロ学生オケ「R☆Sオケ」の指揮で発揮した才能。
それらを見たのだめは、意を決して、千秋が日本から飛び立つことができるように、飛行機恐怖症を克服する「催眠療法」を施すことにしました。
それは、千秋の才能を知り、それを最大限生かす道を切り開く手伝いでもありました。それは、日本からヨーロッパに、世界に飛び立つ道です。
そうなると、のだめがいまのままいれば、千秋との別れをもたらすかもしれないリスクをも内包しているのでした。
だから、そこには世界に飛び立つ千秋に追いつき寄り添うため、努力を自らに課す、という自分なりの努力目標を打ち立てることを意味しました。
相手に合わせて、より自分らしく「自分を変えること」を意味するわけです。
「より自分らしく」というのは、ただ相手に合わせるために自分らしさを捨てて苦痛のなかに身をおくことではない、ということです。
自分を成長させる努力をして、自分のなかの潜在能力というか可能性を引き出し高めていくということです。
ただし、リスクはあります。その努力の過程でぶつかるいくつもの壁に立ち向かい乗り越えることができるか、ということです。
努力の重さに打ちひしがれるような場面が何度も訪れるはずです。
のだめは「千秋が好きだ、いつも追いつき、寄り添いたい」という気持ちで、コンクールへの挑戦を試みます。