のだめカンタービレ 目次
題名について
あらすじ
殺伐さのなかの癒し
外れっぱなしの出だし
千秋真一、そしてトラウマ
千秋とのだめ
のだめ、そして謎
最大の謎は音楽的能力
のだめのメンタリティ
西洋音楽と楽譜
千秋の方法論
千秋とSオケ
若者たちの成長
のだめの成長
でも、やっぱりのだめ
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西洋音楽と楽譜(西洋音楽の文法)

  しかし、人間社会の営み、文化としての音楽には、ただ現実の、目の前の演奏や音楽があるというだけではありません。
  古代から音楽家や演奏家は、自分の営為を客観化するための方法を考えてきました。王や貴族につかえながらも、演奏家あるいは作曲家としての自分の実績や業績を形にして残そうとしてきました。

  それは、さしあたっては、王侯貴族から認められて、楽団での地位を高めたり、俸禄を増やしてもらったりという形だったでしょう。
  それは自分の栄誉や名誉を残すため、あるいは家業として子孫に残すため、後継者たちに自分の到達点を伝えるため…と目的はいろいろあるでしょう。

  その、自分の業績を形にして残すという営為の帰結の1つが、楽曲の設計図、演奏の製造指示書・記録としての楽譜・譜面です。クラシック音楽の場合は、事前に楽譜上に音楽の設計図を描くというのが原則だといえますが。
  それはヨーロッパでは洗練されて、汎用性のある抽象的な記号としての五線譜と7音階――全音・全音・全音・半音・全音・全音・半音という音の階梯――になりました。
  こうして、楽譜と実際の音との相関性が確立されると、作曲家たちは、楽譜という記号・語法(調性や音階、リズム、速さテンポなど)を操作して作曲――楽曲を組み立てる――するようになりました。
  つまりは、記号の集合としての楽譜が、1つの曲という具体的全体、1つのまとまりのある、相対的に自己完結的な構造、ミクロコスモスをを表現するようになったのです。

  こうして、音楽作品は構想設計され、組み立て方が指示され、記録され、再現が可能になりました。

  と同時に、「楽譜=音楽の設計図」は抽象化された記号であるがゆえに、再現・再演にさいして、1つの作品について解釈の多様性、演奏の多様性をも生み出すようにもなりました。
  それゆえまた、作曲家自身の「本来の構想」、イメイジを保持=再現しようという欲求も生み出すことになりました。同時に、作曲家と演奏家との分離・分業も始まりました。


  この分離・分業は、モーツァルトの時代とベートーフェンの時代とのあいだに起きたのではないでしょうか。

  そのときから、作曲家の意図に演奏者自身の解釈や好みをできるだけ入れようとしたり、逆に作曲家本来の意図に忠実になろうとしたり・・・つまり拡散と収斂とを繰り返すようになります。
  その繰り返し、波動が、作曲家や曲の豊かな世界の膨らみをつくりだしてきたのでしょう。

  というわけで、1つの作品について独特な解釈・奏法の面白さを楽しむこと、と同時に作曲家や曲が本来持つ世界観やイメイジを大事にすることとの緊張関係が、音楽には発生してきました。
  いや、すべての文化につきものなのでしょうが。

  そこで問題になるのが、個性や独創性と音楽=曲のオリジナリティです。
  演奏=パフォーマンスにおける個性や独創性は、曲が本来持っているとされるオリジナリティを十全に理解したうえでの話です。
  「あるべきオリジナリティ」というか「普遍性」(原理原則的な要素)を理解しないで、ただ自分の好みや直観を表現してもそれは個性とか独創性とは見なされないのです。
  歴史の蓄積が深い世界に共通の事情です。
  伝統や約束ごととか規則、法則、慣習などが尊重されることになります。過去の歴史や古典の素養や理解が重要視されることになります。

  そうなると、現在の音楽家の個性や感性は後回しにされ、過去の重みに押しつぶされがちになってしまうのではないでしょうか。
  このドラマは、観ようによっては、そんな問題を巧妙に提示しているようです。

  音楽もまた人間の思想や思索の産物だとすると、哲学と同じような進化の過程をたどることになる。少なくともドイツでは。
  ベートーフェンからブラームスにいたる過程のあたりで音楽の調性やら構築性やらは、方法論的・体系的にはいわば完成されてしまった。やがて調性の破壊というか脱構築の時代――シェーンベルクが提起――がやって来る。西ヨーロッパで発達した音楽の構築性・体系性についてはそうだった。
  調性の脱構築のほかには、スラブ系の音楽の手法を取り入れて、西洋音楽を再構築しようとする動きも出てくる。

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