そうこうするうちに、アンディが有罪を宣告され投獄されてから19年目を迎えようとしていた1965年。
ショーシャンクは、終身刑などの重犯罪者だけではなく、通常の窃盗・強盗犯を収容するようになっていた。アンディの髪には灰白色が目立つようになった。
その年、強盗犯としてトミー・ウィリアムズという若い男が入所してきた。トミーは少年時代から窃盗や強奪、住居不法侵入などを繰り返してきた。けれども、今は結婚し、妻は妊娠していた。家族の生活費を得るために「大きい山」を踏むつもりが、ドジを踏んだらしい。
服役はこれがはじめてではなかった。もう何度か、刑務所のハシゴをしていた。
彼は若さと活力にあふれ、頭の回転は速く、ウィットに富んでいた。彼の飛ばす冗談や、きついウィットが、長い服役生活で高齢化していたレッドやヘイウッド、そしてすでに中年にさしかかっていたアンディにとって、大いに刺激になった。
アンディは、トミーに読書や教養の大切さを伝えようとした。
トミーも、妻と新生児のために、生まれ変わって「堅気の生活」に入ろうと強く願うようになっていた。そこで、アンディはトミーに通信教育・試験で高校卒業資格を取得することを勧めた。トミーは、持ち前の覚えの早さを発揮しながら、勉学に励んだ。その結果、好成績で資格所得試験にパスした。
こうして、アンディやレッドのグループに溶け込んでいったある日、トミーは衝撃的な情報をもたらした。
以前、トミーが別の刑務所にいたときに、ケチな強盗や窃盗で服役していた初老の男、エルモ・ブラッチと知り合った。エルモもまた、累犯者で若い頃から強盗や傷害などの犯罪を犯し、刑務所とシャバとを行き来していたらしい。
その男は、かなり以前、強盗に入った家で若い男女2人を銃殺したことを自慢げに、トミーに告げたという。女性は人妻で、浮気相手のゴルファーの家にいたようだ。
エルモによれば、その女性の夫はエリート銀行家で、妻と浮気相手を射殺したという冤罪で刑務所送りになったという。
その情報が事実ならば、アンディの冤罪が証明できる。利発で記憶力抜群のトミーのことゆえ、その情報はかなり信頼性が期待できる。
アンディは、ウォーデン所長に再審請求の手続きをとってくれるように申し出たが、確度の低い情報だとして無視され、はねつけられた。というのも、ショーシャンク刑務所の幹部たちにとって、財政資金の横領や闇資金の蓄財のメカニズムのなかでアンディは不可欠の軸になっていたから、刑務所から出すわけにいかなかったのだ。
アンディなしでは、このシステムは機能しなくなるというばかりでなく、彼はこの腐敗=犯罪のすべての証拠(指導者と参加者、運営の仕組み、資金の規模)を掌握する「証人」だった。この刑務所の外部に解き放つには、あまりに危険な存在だったのだ。
ウォーデン所長とハドリー刑務長らは、アンディの再審請求の余地を完全に奪い去るために、最も残酷な手段に訴えた。「アンディの冤罪を晴らすための情報確認をする」という口実で、真夜中にトミーをおびき出し、容赦なく銃弾の雨を浴びせたのだ。「脱獄逃亡を試みた」という、見え透いた理由を掲げて、トミーの射殺を正当化し、アンディの再審の可能性を完全に奪い去ってしまった。
絶望し、反逆しようとするアンディを、ウォーデンとハドリーはぶちのめした上で、懲罰独房に何週間も閉じ込めた。希望を失って絶望し、完全に従順=従属的な道具になり下がらせるために。