ショーシャンクの空に 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
冤罪で終身刑
ショーシャンク刑務所
暴君所長とその取り巻き
エリス・レッド
専門知識を見込まれる
ポスターとチェスの駒
図書係の仕事
信頼と友情の絆
ブルックス老人の死
図書施設の承認
空に響く美しい歌声
「営利事業」となった刑務所
「真犯人」の情報
脱  出
翌朝、刑務所では
脱獄と痛烈なしっぺ返し
レッド、アンディを偲ぶ
レッドの出獄

レッド、アンディを偲ぶ

ショーシャンク刑務所の指導部と運営体制は一新された。だが、映像には、何もこの点については表現されていない。
  さて、アンディの「快挙」は、レッドやヘイウッドら受刑者仲間のなかでは、いつまでも語り草になった。ときおり、みんながアンディのことを話題にして、彼の忍耐力や意思の強さ、行動力を讃え合った。
  レッドは、アンディの持続的な努力と刻苦精励を思った。刑務所のあの堅固な岩石製の壁を、20年という長い年月のあいだ、あの小さなロックハンマーで少しずつ掘り崩し、ついに脱出可能な穴を穿った。その気の遠くなるような努力と自己抑制の強さに思いを馳せた。
  はるかに遠い目標に向かって毎日挑み続けることで、彼は心の平衡や正常性を維持し続けたのだろう、とレッドは判断した。無実なのに、冤罪で投獄されて20年。そして、悪辣な囚人や所長や刑務長に威嚇され、虐待され続けた。何と理不尽な人生だっただろうか。
  だが、彼は強い意志と自分らしさを失うことなく、平常心を保ちながら耐え続け、静かに強く生き仲間を思いやっていた。まさに尊敬おくあたわざる人物だ。仲間となるなら彼のような人物とだ。レッドは、アンディが近くにいないことを寂しく感じた。
  いや、アンディはいま自由を取り戻したのだ。それは彼のために喜ぶべきことだ。

  ところで、アンディは誰にも疑われることなく、あの厚い壁を壊し続けた。大きな音を立てることもなく。ただ、夜中に、アンディがチェスの駒を彫り続ける小さな音は、しばしばかすかに聞こえた。それは、誰もが知っているアンディの趣味なのだから、疑うことはなかった。
  アンディは岩石と鉱物の蒐集と研究が趣味で、専門の科学者並みの知識や技術を持っていた。だから、刑務所の花崗岩製の厚い壁も、崩壊しやすい結晶構造の方向を見極めたうえで、きわめて小さな音を立てるだけで、着実に崩していったのだ。要するに、岩石の鉱物としての結晶構造に応じて力を加える方向を制御すれば、少しずつなら、確実に切り崩していくことができるのだ。
  小さな岩石を彫って駒をつくるようなわずかな音だけで、硬い壁を掘り崩すことができるというわけだ。「点滴岩をも穿つ」という格言どおりに。

  あの、地上で最も大きな硬度を備えたダイアモンドでさえ、炭素からなる結晶構造を把握すれば、ずっと柔らかい鋼鉄のノミで正しい方向に衝撃を加えると、粉々に打ち砕くこともできるし、美しく輝く多面体=ブリリアントカットのような形状に削ることもできるのだという。
  してみれば、まさにチェスの駒を削るような小さな音を立てるだけで、アンディは花崗岩の壁や岩を掘り崩して脱出用の穴をつくったということだ。

さて、やがてレッドのもとにアンディからの葉書が届いた。そこには、メイン州のバクストンという村のはずれにある場所が記されていた。村境の石積みの境壁が続いているところで、大きな樫の木の根元近くの石の下を探れ、と。そして「外に出られる日が来たら、この場所を思い出してくれ」と書かれていた。

レッドの出獄

ショーシャンクでレッドがアンディと出会ってから40年を経た1967年。レッドは仮釈放が認められた。
  その年もレッドは何の期待も抱かずに、ただ毎年の恒例行事のつもりで仮釈放申請をおこなった。すでに30回以上も、申請は却下されてきたからだ。
  ただし、今回、レッドは仮釈放判定委員会の面談の場で本音を隠さずに表明した。たとえば、
  たしかに、殺人を後悔している。無知な若造の思い上がりと向こう見ずが招いたおろかな行為だった、と。しかし、いくら自分が反省し後悔しても、その心情を殺してしまった被害者に伝えることはできない。あれから毎日のように心のなかで被害者と対話しているが、何の返答も得られない。後悔と反省事態が無意味であるかのようだ、と。
  しかし、死者との対話をやめることができない。
  仮釈放されたら、外の社会の規範に適応できるかって? わからない。かなり難しいと思う、と。

  ところが、委員会はレッドの正直な心情の吐露を聞いて、仮釈放を許可した。
  けれども、釈放は、レッドにとって必ずしも喜ばしいことではなかった。40年間も塀のなかにいると、普通の社会での生活様式に適応できなくなってしまうからだ。以前、ブルックス老人が釈放を嫌がり、出所してから精神的に追い詰められて自殺してしまった。そのことをレッド自身が覚えていた。
  レッドは、ブルックスと同じ町の同じアパートの部屋を住居にすることになった(委員会の手配による)。そして、やはりスーパーマーケットの従業員となった。一般社会で競争しあいながら生き抜いていく知恵や技能、経験、そして目標がないレッドにとって、毎日の生活はしだいに絶望に取り巻かれていくようなものだった。
  絶望の極に追い詰められようとしたとき、ふとアンディの葉書のことを思い出した。「バクストンの村はずれの石垣。樫の大木の根元近く。黒曜石を探せ」。

  翌日、レッドはわずかな荷物をバッグに詰め込んで、バクストンに旅立った。仕事先にもいかないで。そして、監察委員会への週1回の出頭の義務をも放り出して。
  部屋を出る前に、ブルックス老人が自殺する直前に天井の梁に彫った言葉の横に添え書きしてきた。 「ブルックス・ハトルンはここにいた」というメッセイジの横に、「エリス・レディングも、またしかり」と。ただし、旅立つ先はまったく違っていた。

  レッドは、バスを乗り継ぎ、最後に農夫が運転するトラックに載せてもらって、バクストン村の近くまで辿り着いた。そして、石積みの境塁を見つけて、林のなかに入り込んで、樫の大木を見つけた。その根元近くの黒曜石をどけてみると、アンディも住み処まで案内する手紙と旅費を入れた小さな金属製の箱があった。
  アンディの案内にしたがって、レッドはバスを乗り継いで、テクサス州のフォート・ハンコックまで行き、そこからメクシコ国境を超えた。そして、メクシコの太平洋岸を南下していくと、シウアタネーホという場所に行き着いた。
  そういえば、かつてアンディは、このシウアタネーホという土地のことを話してくれたことがあった。自由のみになったら行って住みみたい場所だ、と。
  レッドが海岸を歩いていくと、砂浜でボウトを修理している男がいた。それがアンディだった。2人は再会を果たした。
  ここで物語は終わる。

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