バンドのミーティングののち、アンディはグロリアを夕食に誘いました。
じつは、14歳のとき、アンディはグロリアを口説いたことがあったのです。付き合っていたことも。そして今、グローリアが美しく成長して町に戻ってくると、恋心がふたたび燃え上がったのです。
しかし他方でアンディは、おりしも炭坑閉鎖問題で揺れているこの時期にグロリアがグリムリーに戻って来たことにことに、危惧と疑念を抱いてもいたのです。グローリアが会社の経営管理スタッフの1人だろうと感づいたのです。
ディナーのテイブルでアンディはグローリアを問い詰めました。
グローリアは、経営管理スタッフのひとりとしてはたらいていることを認めた。とはいえ、社長から指示された任務は、炭坑経営を継続する場合に利益(収益性)が見込めるか否かを分析して報告書にまとめて提出するというものでした。
グロリア自身は、炭鉱存続を支持する立場で調査し報告書を書き上げるつもりでした。炭坑の客観的な経営数値の資料・財務資料では、炭坑は収益性が高く、じゅうぶん継続が可能だと判断できるからです。
「だがな」とアンディは指摘しました。
「君はそう考えていても、経営陣は閉鎖をすでに決定していて、ひととおりは経営分析をしてみたという口実をつくるために君を利用しているんじゃないか。
そういう冷酷な経営組織の一員なんだよ、君も」
そういう懸念は、じつはグロリア自身も抱いていました。そこで、社長に問いただしてみました。すると、「君の仕事は経営判断にとって必要なものだ。無駄にはならない」という答えが返ってきました。
そこで、グロリアは仕事を続けることにしたのです。
その夜、2人は恋人たちに戻ったようです。
一方フィルは、借金の返済期限が迫ってきたので、少しでも金を稼ごうとして、しばらく休んでいた道化師のアルバイトを再開しました。炭坑の就業を終えてから、近隣の教会付属の保育園などで道化師のまねごとをして金を稼ぐためです。
そうやってようやく貯めた50ポンドを分割払いの頭金として楽器店に払って、300ポンドの新しいトロンボーンを買いました。妻には、アンディから楽器を借りたことにして。
こうして、準決勝の日までにトロンボーンを換えることができました。
しかし、前の日の夕方、高利貸しが取り立てにやって来て、フィルを痛めつけ、「明日までに払わないと家財を全部没収してやる」と脅していったのです。
ハリファックスでの準決勝では、バンドの全員が気迫を見せて、ロンドンでの決勝への進出を決めました。だが、グリムリーに帰還した直後、ダニーはひどい喀血を起こして倒れてしまいました。
しかも、フィルが家に帰ると、サンドラが悲嘆にくれていた。高利貸しが、家のなかから家財一切を持ち去ってしまったのです。
「もう、こんな生活には堪えられない。あなたとは暮らせない!」と言い置いて、子どもを連れて出ていってしまいました。
というのも、フィルが新しいトロンボーンを買ったときの分割払いの領収書を見つけてしまったからです。こんな大変な時に楽器に大金を注ぎ込むなんて、ということだろう。そう憤ったのです。
ついに、ダニーは町の病院に入院しました。バンドのメンバーは、ダニーに演奏を聴かせようと病院の裏庭に集合し、《ダニーボウイ》を演奏しました。まさにダニーに贈る曲です。それはダニーへの力強い応援となりました。だが、それはダニーの前ではメンバーたちの最後の演奏です。みんなそう覚悟していました。
メンバーを代表したハリーは、「俺たちはもうバンドを退団する。それをダニーに伝えてくれ」とフィルに頼み込んだ。ダニーへの応援曲は、同時に別れを告げる曲だったのだ。
フィルは愕然、茫然としていました。妻と子供たちが去っていってしまったうえに、倒れた父親にバンドの解散を告げなければならないのです。
やがて組合員投票の日がやって来ました。フィルは少しでも高い離職補償金を得るために「鉱山の閉鎖」に賛成するつもりでした。